全寮制男子校では、男同士の恋愛に発展しやすい。滅多に会えない女子、温もりに飢えついついセフレなんてものを作りがちなこの学園で、最近やたらと耳にするキスフレンドなるものがある。セフレがセックスフレンド、つまりはセックスを楽しむ間柄を示すが、キスフレはキスを楽しむ間柄というわけで、セックスまで踏み込む気はないがキスくらいなら、という葛藤を解決することになる。

目の前にいる男をじっと見つめる。

第一印象、面倒見が良い。
第二印象、小動物に似てる。リスとかその辺。

風邪の時、面倒を見られて以来、ただのクラスメイトから放課後、一緒に勉強する友達にまでなった。
二つの印象は相変わらず変わらない。
静かな図書室で自分の勉強はせず、俺の分からない問題を一から教えてくれる。人が良すぎるだろ。

教えてばっかで勉強は良いのかって聞いたら、教えると自分の中で解き方とか覚えやすいから良い勉強になる、と笑いながら言う青海。そんな青海の隣は居心地が良かった。

学園にいる間は部活の連中か青海かの二択になるようになった。
とりあえず通して問題をやろう、となり無言で文章を読み込む。スポーツ馬鹿と言われるのも納得だ、文章の意味が分かんねえ。

十分くらいで解ける、って話だ。時計を見たら当然あと九分はある。やべー暇だ。
ちら、と青海の方を伺うと真剣に問題をじっと眺めて、たまに計算式を書いてる。また後で教えてもらうパターンだ。

たまに分からないのか首を傾げて、それからシャーペンの先端を唇に押し当ててる。薄いピンクの柔らかそうな唇がぐに、と変形して少し口を開けてる。腰の奥が熱を持つ。

こいつ妙に色っぽい仕草するよな。リスのくせに。
ふと部活内でキスフレが話題になったのを思い出した。部活内でもふざけてキスし合ってた。誰がお前らとするか、と吐き捨てて逃げてきた。

青海とならしても良いんだけど。

そんなことを思って、はあ、と溜息をつく。もうとっくに気付いている、この目の前の面倒見のいいリスみたいな男に惚れてる、と。

「?どうしたの、溜息ついて」
「いや…」

まさか、お前のこと好きになったなんて馬鹿正直に言える訳がない。そう?と首を傾げて再び問題に目を落とす青海は唇を尖らせる。まるで、キスを、待ってるみたいに…。

キスしてえ、そう思った言葉がつい口に出てたらしい。

「へ?…え、キス?」
「いやっ……その、キスフレ?ってやつが流行ってるだろ、そしたら…口寂しくなった」
「ええ、いきなりだね」

内心焦りながらも青海の反応を伺う。すっかり集中力が切れたのかノートまで閉じてるのをみるとちょっと悪かった気がするが、もしかして押せばいけるんじゃねえかと、そんな気がした。

「じゃあ、する?」
「は?…はあっ!?」
「大声出したら怒られちゃうよ」
「やべ…じゃなくて、今何つった?」
「キス。したいって言うから」

青海な何でもない顔で言うから、ついこいつ慣れてんのかと訝しむ。
大人しそうな顔して意外とやり手なのかと、喜べない自分がいる。けどこの機会を逃すのは勿体ない。

「して良いのかよ」
「草間なら良いかなあって」
「……じゃあ、する」

妙に慣れてる様子で青海はこっちに寄ってくる。一応人目を気にして辺りを見回すが本棚に囲まれていて視線はない。緊張感からごくりと唾を飲み込んで青海の顔を見上げる。こんだけ緊張するなんてそうない、バスケの試合だって緊張なんて全然しねえのに。

青海がそっと肩に触れてきて、そのまま顔に影を落として、ふわりと合わさる。
青海の唇の柔らかさにビビりながらも、それ以降動きがない。触れたきり、深く合わさることもない。慣れている感じはなく、ただ合わせるだけ。

物足りなさと落胆を覚えながらも、甘い痺れるような感覚が堪らない。癖になりそう。

ちゅ、と音がして青海が離れるとその顔が赤いことに気付く。

「…真っ赤じゃん」
「ちょ、ちょっと…恥ずかしくて」
「……お前まさか初めてじゃねえよな?」

その初々しさはとても演技には見えない。恥ずかしそうに視線を逸らして、唇を噛み締める様子に心臓がばくばくと高鳴る。

おい、まさか、と。

「は、初めてだけど…やばかったかな」
「やばいも何もお前」
「キスしてみたかったし」

真っ赤な顔は、これはもうそう言うことで間違いないよな?
立ち上がって見下ろした顔に今度は俺の方からキスを落とした。

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