コールイは朝食後、勉強会と称されて図書室で会ったアマネの相談に飲みかけのお茶を噴き出しそうになった。

「…今なんて?」
「だから…か、カヨウ…王様がいつまでもその下手な接吻はどうにかならないのか、って…」

思わず口をあんぐり開けてアマネを見つめる。
吹き出さないようなんとか堪えたのを褒めて欲しい。
色々と初心なアマネにそんなことを言ってのける王様に驚き、そんなことを素直に相談してしまうアマネに言葉がなかった。
確かに国が認める夫婦になった2人だけど、だとしても、だ。
そして咄嗟に出た言葉は、

「惚気は大概にしろよな…」
「の、惚気じゃない…どうしたら上手くなるんだろうって、れ、練習とか分かんないし」
「陛下は誰かと練習しろって言った訳?」
「それは言ってないけど、でも下手って朝ベッドの中で言われて」

ベッド。そして朝からそういう雰囲気になる程2人は甘いってことだろう。そんな内情知りたくなかった。
その言葉は聞かなかったことにして、コールイはさあどうしよう、と首をひねった。まさか陛下もつい言ったその言葉を真に受けて相談までしてしまうなんて思っても見なかったことに違いない。

「コールイは、上手いの?」
「は?」
「えっ?いや、だからその、キス、じゃなくて接吻…」
「……お前…」

この国で最も大事にされる、神と呼ばれる存在にコールイは呆れて物も言えない。
神としてだけでなく王の伴侶としても崇められているアマネは、それに驕ることがなく誰よりも平凡で穏やかなまま王に護られて生きている。
ここまで素直に生きているアマネに振り回されているのは王だけではなかったことをここで痛感した。

「練習したいのか?」
「だって笑われるし…」
「じゃあ…なってもいいぜ、その練習相手に」
「ほ、ほんと?」
「後で陛下に怒られても知らないからな。俺を庇うのも忘れないでくれ」

安心したように顔を綻ばせ頷くアマネに、一抹の不安を覚えながらも、実に王は苦労するだろうとコールイは同情した。
座ったままのアマネに、挟んでいる机の距離を縮めて顔をかがめる。
素直に待つアマネの唇にそっと、傷をつけないよう気をつけて唇を落とす。

かさ、と乾燥しているのはコールイの方でアマネは手入れがされているのか潤って変な感触も少しもない。
ぎゅ、と目をつぶり受け身のままのアマネにコールイはそっと舌で唇をノックする。うっすら開いた隙間から侵入させ、奥に縮こまる舌を絡めて引き寄せる。
ん、んっと溢れる声を聞きながら、ついその柔らかく本人の性格の臆病さを表すような逃げの動きを捕まえる。

「ぁ、あ…っ、んう」

にしてもいつまでも受け身なんだけど、これは練習になってるんだろうか。動きは稚拙でされるがまま、きっと陛下としたのもこんな感じなんだろうと想像がつく。

「もっと絡めて…ほら」
「んっ…ん、ん」

言われてようやく練習なことを思い出したようにそっと蠢きはじめた。
ぺちゃ、と水音にすら恥ずかしがって顔を赤くするアマネに上達なんて言葉は程遠い。

別に陛下は下手なことを嫌ってないだろう。むしろ下手なことに安堵してるだろうし、上手くなって帰ってきたらそれこと怒髪天を突く勢いで怒るに違いない。
そう思うと我が身のが不安だったりする。

「ん、ふ…こ、るい…っ」

とん、と肩を叩かれて体を離すとアマネの濡れた唇が目に入る。頬をこれでもかと赤くしてぽおっとした表情でアマネは「上手くなったかな…」とこちらを見上げる。目は潤んで、唇が微かに開いているのはぞっとするほど色気に塗れている。

「これで陛下も満足してくれるよ」

アマネは自信がついたのか、よし、と頷いた。

次の日、言うまでもなく陛下に呼び出されしばらくの間アマネとの接触を禁じられたのは割と甘い処分だと、コールイは胸を撫で下ろした。

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