最恐ブチギレガール



 
 
 
「今日も可愛いな天女様」

「ウフフ、三郎クンありがとぉ」



最初は正直ショックを受けた。



しかし、それは最初だけ。



くの一を目指してからというもの、私は女としての自分を捨てた。



勿論、色の授業や任務もあるので“女”としての美しさは磨いている。肌や髪の毛や爪等のお手入れは欠かさないし、男を惹きつける話術や仕草も日々研究している。



“女”だが“女”じゃない。



そんな私に女としての心を教えてくれたのが三郎だった。思えば、これが初恋だったのかもしれない。



「三郎クン、あたしそっちのお団子も食べたいなぁ」

「本当に可愛いな、ほら、あーん」



例えそれが、天女討伐という逸脱した出来事による相乗効果だったとしても。



「天女様、頬に餡子が付いてるぞ」

「えっ、どこぉ?」



………耐えろ。



作戦はすでに最終段階だ。



「もぉ!早く取ってよぉ!」

「はは、じゃあ動くなよ」



………耐えろ。



斉藤が心配そうに見ている。



つまり今の私の表情には、変化があるという事だ。



それはマズい。



あのアホ暴君の七松でさえも、天女への媚び売りを問題なく実行してくれているんだ。落ち着け。たかが目の前で男女がイチャこらしているだけの事だ。たかが自分の恋仲の男が目の前で天女とイチャこらしているだけの事だ。



天女討伐委員会委員長として、



作戦を、遂行、するんだ。



………耐えろ。



……………耐えろ。



……………………耐え



「きゃっ!三郎クン!いきなりチュウしたら恥ずかしいよぉ!!」

「本当はその唇にしたかったんだがな、私だけの天女様」









あ、無理。





私は、足元にコロコロと風で転がってきた桶をグシャッ!と踏み潰した。



『てめェ三郎ゴルァァアアア!!!それは私というモノがいるのわかってて言ってんだろうなァァァあ゛あ゛ァァァん?!!!』



私は天女に従うか弱いくのたまという役を放り投げ、三郎の胸ぐらを掴み上げた。


 
「なっみぞれ先輩!何をするんですか!?」

『な・に・を・す・る?ハァアアア???!てめェいつから私の事“みぞれ先輩”呼びに変わったんだよコラァッ!!それと言ったよね?「天女なんぞに私の心は奪われたりしない、みぞれがいるからな……」ってクッサイ台詞言ったよね?!!!まったくもって嘘じゃねェか夢中じゃねェか冗談はそのお粗末なナニだけにしとけボケゴルァァァァ!!!!』



あっそう!!



すでに三郎は身も心も天女のモノってか!そうですかそうですか!!なるほどね!!よォォォくわかったよ!!!



「でたらめ言うな!私は天女様一筋で」

『振るの?ここで私を振るの?ああそう!!!てめェみたいな口だけのインチキ野郎こっちから願い下げじゃボケェッ!!!正気取り戻したら覚悟しとけよ?そのお粗末なナニを捻り潰して生物委員が絶賛飼育中の狼に食わせてやるからなァァァァ!!!!』



三郎の胸ぐらを締め上げていると、横から手が伸びてきて引き離される。



じろりと手の主を見ると、アホ暴君の七松が立っていた。



「みぞれ落ち着け!細かい事は気にするな!」

『気にするわ!!しかも細かくねェよ!!!仮にもこいつの女だったんだよ部外者が口はさんでくんじゃねェよてめェのデカいだけのナニもミンチにするぞゴルァ!!!!』



溜まりに溜まりまくっていたストレスもあり、私は大爆発してしまった。



もう天女討伐の作戦なんか知らん!!とりあえず三郎殺すッ!!!!!



私は七松を蹴り飛ばし三郎へと向き直すと、天女が三郎を庇うように前へ出て来た。何だこの天女。この私とヤろうってのか?



「ちょっとみぞれ!アンタ三郎クンの彼女面する気?!!あたしの下僕のクセに生意気よ!!」

『おい天女、貴様如きがこの私の名前を口に出してんじゃないわよ図々しい気持ち悪い汚らわしい!』

「なっ何ですってぇ!!?」



私に命令しようなんて百年早い。



しかし、天女も負けじと反論してくる。


 
天女側の上級生も、ちょいちょい口を出してくるが私に勝てるはずもなく引き下がっていく。引き下がるくらいなら口を出すな天女の犬共!!



そんなの攻防が続く中、アホ暴君の七松が天女へ爆弾を投げた。



「なぁなぁ天女、お前口だけでも上品に喋らないと駄目だぞ?今までの天女の中で一番ぶすだから」



あ、それ言っちゃうか。



私は敢えて触れなかったのに。



「あぁもぉっ!!ほんとアンタもアンタもムカつく!!!」



ヒステリックに叫んだ天女が、私に向けて指を差した。



「二つ目の願いよ!この暴君を世界から消して!!」

『は?』



……何を言ってんだこの女は。



しかし、そう思った次の瞬間、私の意識が暗転した。










消えた女暴君
(あたしのお願いは絶対なの)



 



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