残り僅かな理性の糸
みぞれちゃんは元々、今みたいなおとなしいタイプではないらしい。
“らしい”というのは、僕は途中編入だし、あまりみぞれちゃんと関わった事がないので知らないからである。
つまり、入学した時からみぞれちゃんを知っている同級生の滝夜叉丸君や三木ヱ門君、喜八郎君が教えてくれたのだ。
鉢屋君と恋仲になる前のみぞれちゃんは、まさに暴君だったらしい。
暴君といえば七松君が思い浮かぶ所だが、上級生の忍たま達は同時にみぞれちゃんも思い浮かぶのだとか。
先生方や忍たま上級生は口を揃えて「恋は女を変えるんだなあ……」と一安心したらしい。
みぞれちゃんはくのたまの六年生で、忍術学園唯一のくの一志望の女の子である。
とっても頭が良いし、任務は完璧の成功率と先生方が称賛していたし、聞いた話では六年生の忍たま達とも普通に渡り合える強さらしい。
後輩からは慕われていて、優しいお姉さんというイメージだと委員会の子に聞いた。
ただ、問題は、そのイメージで接してくれるのは三年生……、つまり下級生までなのだ。
上級生に進級した途端に、対応が一変したと若干涙目で教えてくれた同級生。
すごく負けず嫌いでどんな手を使ってでも勝利を手に入れるとか、潮江君と食満君の喧嘩は止めるどころか参戦して逆にボコボコにしてしまうとか、体育委員会のいけどんマラソンにふらりと参加していつの間にか七松君と競争になり他の体育委員の子が医務室送りになったとか、作法委員会が仕返しがてらに罠を仕掛けたら倍返しされて立花君と喜八郎君はさらに亀甲縛りで鞭打ちされたとか、話を聞くと七松君が可愛く思えるほどの暴君振りである。
でもそんなに恐ろしい子には見えないのにな〜。天女討伐委員会の時も僕には優しく教えてくれたし……。
そんな彼女が、鉢屋君と恋仲になって女の子らしく振る舞うようになった矢先の出来事。
今回は今まで一度も惑わされなかった最愛の恋仲である鉢屋君が、天女に惑わされてしまったのだ。
それでもみぞれちゃんは、涙も見せず弱音も吐かずに僕たちに的確な指示を出して作戦を遂行している。大好きな鉢屋君が天女と仲良くしているところなんて見たくないだろうに。
僕はそんな健気なみぞれちゃんを見ていると、いつも胸が痛くなって泣きそうになる。
でも、それももう最終段階。
みんなからちやほやされている天女。それは僕たち天女討伐委員会も例外ではない。この忍術学園全員が天女に夢中と思わせるのが目的である。くのたまのみぞれちゃんも天女に媚びを売って、お世話係という名の下僕を演じている。
天女がみぞれちゃんを完全に信用し油断するまでもう少し。後はタイミングをみて誘い込み始末するだけ。
ただ問題は、天女は鉢屋君がお気に入りだということ。今日も今日とて、みぞれちゃんの目の前で鉢屋君と恋仲のように振る舞っている。
鉢屋君、君の恋人が目の前にいるんだよ?そんな天女なんかと何してるの?お願い気付いてあげて!みぞれちゃんすごく傷付いてるんだよ!?
…………ねぇ、鉢屋君。
もしこれ以上みぞれちゃんを傷付けるなら、僕が貰
『てめェ三郎ゴルァァアアア!!!それは私というモノがいるのわかってて言ってんだろうなァァァあ゛あ゛ァァァん?!!!』
そう叫んだみぞれちゃんが、足元に転がってきた桶を踏み潰した。
初お披露目、暴君復活。
(えっみぞれちゃんっ??!!!)
(えっみぞれ先輩っ??!!!)
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