アティside
顔に刺青のある男――ビジュの言葉に従い、私とレックスは武器とサモナイト石を捨てた。
私もレックスも、ユキやカイルさん並の体術の腕前が無いため、武器と召喚術を取り上げられると満足な戦いが出来ない。
しかも……向こうには今、みんなが人質にとられているため、攻撃を避けることすらもままならない状況。
ビジュは私達が抵抗出来ないことを確認すると、ニタリといやらしい笑みを浮かべ、召喚術を発動させた。
「んあぁぁっ!?」
「くうぅぅっ!?」
召喚術の直撃を受け、私もレックスも、ガクリと膝を着く。
致命傷に至らない所を見ると、ビジュは敢えて威力の低い召喚術を放ったと思われる。
私達をいたぶるため?
だとしたら……まったく、悪趣味な男だ。
「どうして……どうしてそこまでするんだよ!?」
「私達なんかのために……っ」
「僕達はあなた達に、あんなことを言ったのに……」
「そこまでする理由なんて、無いじゃないの!?」
ポロポロと涙を流し、声を震わせながら叫ぶ子供達。
もう……そんな顔されると、こっちまで泣きたくなっちゃいますよ……。
私はレックスと顔を見合わせた後、子供達に向かってニコリと微笑んだ。
「もう、忘れちゃったかもしれないけど……約束……したよね?」
「絶対に、みんなのことは守ってみせるって?」
子供達は驚きの表情を浮かべた後、唇を噛みしめていた。
「イヒヒヒ……泣かせるじゃねェか?本当なら、あの刀使いの女も一緒に始末してやりたかったんだが……」
恐らく、ビジュが言っているのはユキのことだろう。
以前戦った際、ビジュはユキに手も足も出なかったらしいので、その時のことを根に持ってるのだろう。
しかも、女性だと思ってるみたいですね……。
「まァいい……お前達は、その約束とやらを律儀に守って……死ねええェェッ!!」
「「「「せっ、先生ぇぇぇぇっ!!」」」」
ビジュの召喚術が発動するかと思った瞬間――子供達が一斉に召喚術を発動し、その衝撃でビジュを吹き飛ばす。
これは……この間教えたばかりの召喚術……!
周囲にいた兵士達も、予想外の事態に身構える間もなく、ビジュと共に吹き飛ばされた。
兵士の手から逃れた子供達は、泣きそうな表情で私達の元へと駆け寄ってきた。
「しっかりしてくれよ、先生っ!?」
「こんな、傷だらけになって……」
「馬鹿だよ……僕達なんかのために……」
「どうして……こんなになってまで……!」
私達に抱き着くと、我慢していたらしい涙を溢れさせる子供達。痛む腕を動かしながら、私達は彼らをギュッと抱きしめた。
「私達なら、平気です。だから、ほら……もう泣かないで?」
「みんなこそ……怪我はないかい?俺達なら大丈夫だよ。こう見えて、結構頑丈だからさ」
「……やれやれ……お前達のどこが大丈夫なんだか」
――っ!?
突如耳に入ってきたのは、優しげで涼やかな、聞いていると安心する声。
顔を上げれば、腰に手を当てて、困ったような笑みを浮かべている――ユキの姿。
「来て、くれたんですね……ユキ……」
「ああ。遅くなって悪かった」
「いや、そんなことないよ。ユキなら必ず来てくれるって……俺達、信じてた」
「ふふ、当然だろ」
ユキは涼やかにニコッと笑った後、霊属性のサモナイト石を取り出した。
「召喚、聖母プラーマ。癒しの聖光をこの馬鹿達に分けてくれ」
詠唱を省略した召喚術ながら、喚び出されたプラーマは、凄まじい魔力をユキから得ているようだった。
ヤードさんが言っていた、魔剣の効果なのだろう。私達の傷は、瞬く間に消えてしまった。
と言うか、詠唱が少し辛辣だったんですけど、あまり気にしないことにしましょう。
そしてもう一度、私達に柔らかく微笑みかけると――ゾクッとする程冷たく鋭い眼光を、ビジュに向けていた。
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