船を出て、俺は中途半端に舗装された道を歩いていた。

元はきちんと整備されていたようだが、集落同士の交流が途絶えてからは、整備されずにほったらかしにされているらしい。



まっ、道らしい道があるだけましだな。



船を出るときに持ってきた酒瓶を弄びながら、足を進める。

食事付きとは言え、無給長時間労働はジャキーニ達も辛かろうと思い、一応差し入れを持ってきたのだ。



林道に入り、そこを暫く歩いていると、左右に分かれる妙な分岐路を見つけた。

左に行けば、ユクレス村。
だが、ここで右に曲がっても、ユクレス村とは反対にある風雷の郷に着くわけではないはずだが?



この道の先に興味を覚えた俺は、好奇心に任せて右に曲がった。


ジャキーニ達への差し入れなら、別にいつでもいいしな。うん。



歩くこと暫くして――謎の道の先にあったものは、一件の建物だった。



「……なーんか、見たことのある建物のような気が……」



軍人として、まだ帝都ウルゴーラにいた時に知り合った、とある酔っ払いの店を彷彿とさせる造りだった。



その酔っ払いは酒場でチンピラに絡み、チンピラを半泣きにさせていた。
ちなみに、ここ重要。チンピラに絡まれていたのではなく、その逆だったのだ。

偶々近くを通りかかった俺は、騒ぎを聞きつけて酒場に向かい、その酔っ払いからチンピラを助け出したのだが――それがきっかけで、その酔っ払いとは知り合いになってしまったのだ。


まー、帝都にいるアイツが、こんな場所にいるわけ無いけど。




入り口の前には看板が出ているが、書いてある文字がシルターンのものらしく、何が書いてあるかは解読出来ない。
看板がある以上、店なのだろうか?そう思って扉を開けてみると、備え付けられていた鈴がカランコロンと鳴った。



「いらっしゃーい」



机に座っていた店主らしき女性が、店に入ってきた俺に気付き、こちらを見やる。
どうやら酒を飲んでいたのか、少々店内が酒臭い。


店主の姿は赤い服。団子状に左右で結えられた髪。頭から生える二本の角。丸い鼻眼鏡。



「め、メイメイ……?」
「あら〜、ユキじゃないの?暫く見なかったけど、元気にしてたぁ?」



帝都で出会った、酔っ払いの知り合いがそこにいた。



「まあまあ、取り敢えず座りなさいな。いやー、懐かしいわねぇ。あ、これお土産?流石、気が利くじゃないの♪にゃはははは」



一方的に喋りまくり、ケラケラ笑いながら俺の背中をバシバシ叩いた挙句、ジャキーニ達への差し入れのつもりで持ってきた酒をぶんどるメイメイ。

俺は呆れながらも、進められるままに、今までメイメイが座っていた場所の正面に座る。


更に、頼んでもいないのに、俺の分の酒まで用意しやがった。

お前ほど人の話を聞かない奴もいないだろうよ。



「じゃ、二人の再会を祝して、かんぱ〜い」
「はいはい。かんぱ〜い、じゃなくてね。何でアンタがここにいんの?」



先程言った、帝都で知り合った酔っ払いことメイメイ。

呆れ顔の俺をちらりと見て、酒をグイッと一気に飲み干す。



「そうねぇ……話せば長くなるのよ。……結論から言えば、“乙女の秘密”ってことになるわ」
「へー、明らかに過程が存在してねーよな、それ」
「あ、バレた?にゃははははは♪」



コイツはスカーレル以上に飄々としていて、掴み所が全く無い。


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