「ユキは海戦隊の隊長だったんだぜ?」
ったく、この兄妹はまた余計なことを。
呆れ顔の俺には気付かず、得意気な表情をしているカイルとソノラ。
お前らが得意気にしてどうするよ……。
考え込んでいた子供達は、二人が言っていた意味に漸く気付いたらしく、顔をパッと上げて驚きの表情を見せた。
「お、お兄様は、元帝国軍人なのですわよね……?」
「そーだよー」
「帝国海戦隊の、ユキ隊長って言ったら……」
「きょ「狂乱の黒い風っ!」……っ」
ウィルの言葉を遮り、文字通りウィルを押しのけて、テーブルに身を乗り出すナップ。
一方ウィルはと言えば、言葉を遮られたことと、ナップに押しのけられたことで、不愉快そうな顔をしている。
ナップ、やけに目がキラキラしてんな。こういう話好きそうだもんなぁ。
他の三人も、俺を尊敬するような、キラキラとした目で見ていた。
あー、居心地悪い。
そんな子供達に対して、俺は曖昧に微笑みを返す。
「帝国軍海戦隊、第14部隊隊長ユキって言ったら、帝国内で知らない人はいないもんねー?」
「勿論!"狂乱の黒い風"の異名を持つ程の、もの凄く強い軍人なんだよなっ!?」
「正確には、帝国領に進行してきた旧王国軍の艦隊をたった一部隊で打ち破ってから、"狂乱の黒い風"と讃えられたんですよね、兄さん?」
「よく知ってんなー、ウィル」
「オレだってその位知ってるさ!」
「私もー!」
「はいはい、ナップもソノラも凄い凄い」
テーブルを越えて詰め寄ってきたナップと、テーブルを回ってやって来たウィル、なぜか自慢気なソノラに苦笑し、頭を撫でてやる。
「海に生きる俺達からすれば、"狂乱の黒い風"の名前を聞いただけで、震え上がったもんだったけどな」
「はは……大げさすぎだ、カイル」
身震いする動きを見せたカイルに苦笑しつつツッコむと、その場の全員が盛大に笑った。
「でも、私……そんなに強い軍人さんなら、とても恐い人だと思ってたんですけど……お兄ちゃんみたいな、優しい人だとは思ってもなかったです……」
「そうか?有り難うなー、アリーゼ」
アリーゼの頭を撫でてやると、満面の笑みを浮かべていた。
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