「そんなことがあったのね……。でも、ユキはどうして突然いなくなったりしちゃったわけ?」
「それが、何も教えてくれなかったんだ。噂は色々あったけど、どうもそれは全部ユキ自身が流したものみたいだったし。本人に問い質しても、必ず誤魔化されて……」
「卒業式が終わると、ユキはすぐに軍学校から出て行って。その後私とレックスは陸戦隊に、ユキは海戦隊に配属されたので、顔をあわせることも無くなって……この島で会ったのも、本当に卒業して以来なんです」



今聞いても、きっとユキは何も教えてくれないのだろう。

あの時と同じように、笑いながら「何でもない」って軽く言って。
俺達がどんなに必死に問い質しても、それをスルリとかわして、気付けばいつもの調子になっている。


この話を聞いて、スカーレルは何かを考え込んでいるようだった。

その表情は初めて見るくらいに真剣で、声を掛けるのも躊躇われる。



「あの、さ……俺からもスカーレルに聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「え?あ、ええ、アタシに答えられることなら。と言っても、大体の察しは付くけど、ね」
「うん……ユキがここの一家に入った理由って、何なのかな?」



俺の発した質問に、姉さんは「忘れてた」と言いたげな顔で、俺の方を見た。


まあ、姉さんの気持ちもわかるけど。
こうやって状況に流して話を誤魔化すのは、ユキの得意技だ。

他人の過去を兎や角詮索するのは気持ちいいものじゃないけど、それでも、やっぱり知っておきたい。
興味本位からじゃなくて、心配だから。友達だからこそ、知っておきたいのだ。



スカーレルは先程の言葉通り、俺の質問を予想していたらしい様子だった。



「アタシ達がユキに出会ったのは、今から一年くらい前だったわね。帝国領の外れにある港町で、船を停泊させていた時よ」


一年程前と言うと、ユキが軍を辞めたという話を聞いてから暫くした頃か。



「今でも覚えてる。雨の中で傘も差さずに、港の淵でボーッと海を見てたのよ。武器も持たず、身なりはボロボロで」
「……!?」
「あまりに気になったものだからカイルと一緒に話しかけてみたんだけど、"自分でも何でここにいるかわからない"って言われてねぇ」
「記憶を無くしていた……ってことですか……?」


ユキが口にしたらしい意味深な発言に、姉さんが驚いたように尋ねる。

しかし、スカーレルは首を横に降ってそれを否定した。


「そうじゃなかったわ。見るに見かねて船に連れて行って、休ませた後もう一度話を聞いたんだけど、自分の名前や経歴は話してくれたもの。詳しいことは、何も話さなかったけど」
「それで、どうしてユキがこの船の一員になったんだい?」
「世話になった礼をしたい、ってね。最初は数日間、掃除と調理をしてもらう予定だったんだけど……ほら、あの通りの腕前じゃない?」
「確かに、メイドさん形なしの家事能力と、帝都の一流料理店以上の料理の腕ですからね。おまけに、美人さんですし♪」
「姉さん、最後のはユキの耳に入ると大変なことになるから、あまり大きな声で言わない方がいいと思うよ……」
「うっ、そう言われればそうでした……」



まあ、ユキが美人ってことには激しく同意なんだけど。


でも、"男前"じゃなく"美人"はユキの逆鱗に触れる可能性があるから、言わないようにしないと。

うん……経験者は語るんだよ……。



「まあそんなわけで、カイルがどうしてもって引き留めてね?ユキも断る理由はないからって、今に至るってワケ」
「そうだったんだ……でも何で、ユキは軍を辞めてそんな所にいたんだろう?」
「丸腰なのと、その時の様相も気になりますね。それについては、何か聞いてませんか?」



俺達の質問に、スカーレルは肩を竦めて困ったような表情を浮かべた。


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