レックスside



朝の食卓にて――ユキの作った料理は、相変わらず美味しい。
他のみんなも、見ていて気持ちのいいくらいの食べっぷりだ。

……っと、ぼーっとしてると俺の分まで無くなっちゃうな!


何故か次第に争奪戦になっていく食事に、負けじと自分も身を投じる。
目の前にあるベーコンとチーズのフライに手を伸ばそうとするが、ソノラが凄まじい速さで横から奪っていく。

み、みんな動きのキレがおかしい!?


ユキは苦笑しながら、自分の皿に確保していたらしいそれを俺に分けてくれた。
その瞬間を待っていましたとばかりに、今度はカイルが風の如き速さで手を伸ばして来る……が、狙いを同じく手を伸ばしていた姉さんの手と衝突し、二人とも痛みに悶えている。


その様子に呆れながらも、クスクスと笑みを零すユキ。

何かいいなぁ、こういうの。




朝食後、後片付けを始めたユキに別れを告げ、俺と姉さんは部屋に戻った。


こんな状況だが、今日から家庭教師の仕事を本格的に始めようと思っている。

当面はどういった流れで授業を進めていくか、そしてどのような教材が必要になるかを二人で話し合い、まずは今日必要なものをユキの蔵書を利用して作成する。


流石はユキ、色々本が揃ってるなぁ。

召喚術に関してならヤードの蔵書の方が充実しているが、あまりにも内容が高度すぎて、俺達ですら理解出来ないものが多い。
まあ、ユキの蔵書も大概だが、そこは仕方ない。



そうして作業を行い、一段落ついた頃。

授業の予定時間まではまだ時間があるので、ユキにお茶をいれてもらおうということになり、厨房に向かおうとした時。



「センセ達、差し入れよ」



扉をノックする音と共に、スカーレルの声が聞こえた。

扉を開けると、スカーレルはコーヒーとお菓子を持っていた。



「これ、ユキからの差し入れよ」
「わあ、丁度お茶を貰おうと思ってた所だったんですよ♪」
「あ、しかも砂糖とミルクの量が俺達好み……うーん、流石ユキ。ぬかりが無いなぁ」



ユキは天気がいいからと、各部屋の布団を干しているらしい。
そこにコーヒーを所望しに行ったスカーレルが、ついでに俺達の所に運ぶように言われたのだそうだ。


……スカーレル、体良くユキに追い払われただけのような……うん、あとが怖いから気にしちゃいけないな。

取り敢えずスカーレルも座るように勧めて、俺達はコーヒーで一服する。



「ねえセンセ、センセ達はユキと軍学校で一緒だったのよね?」
「ええ、年はユキの方が一つ上なんですけど。入学の手続きの関係で、って話してました」
「学生時代のユキって、どんな感じだったの?」
「そうだな、今と殆ど変わりないよ。何だかんだ言いながら、面倒見が良くてさ」
「成績なんて凄かったんですよ!勉強でも剣術でも、誰もユキに敵わなかったんですから」



確かに、学生時代にユキより優れていた所を挙げろと言われると答えられないくらい、ユキはずば抜けて優秀だった。

姉さんがまるで自分のことのように誇らし気に語る様子に苦笑していると、スカーレルは対象的に、どんどん不思議そうな様子になっていった。



「まあ、ね。こう言っちゃ何だけど、戦いを見ててもセンセ達よりユキの方が強いのはよくわかるわ。けど……学校を首席で卒業したのは、センセ達なのよね?」
「それは……ちょっと、事情があってね……」



スカーレルが口にした疑問に、俺達は表情を暗くする。

そう。成績で言えば、首席で卒業するのはユキで間違いなかった。
品行方正、成績優秀。最終的には学校史上最高の成績と言われたユキ。


けど、首席にはなれなかった。
ユキは、その権利を自ら放棄してしまったのだ。



俺と姉さんは、スカーレルに知っている範囲の事情を説明する。

スカーレルは、海賊としてユキと共に過ごしてきた仲。
ならば、知る権利がある。話す理由がある。

俺達も、聞きたいことがあるしね。




ユキは卒業試験を翌日に控えた日、学校から忽然と姿を消した。
あの時は、学校内でもかなり大きな騒ぎになった。史上最高の成績を誇る、将来を非常に有望視された生徒が、突然いなくなってしまったのだから。

勿論俺達も相当に心配したのだけど、試験当日もユキは姿を見せず。
結局戻ってきたのは、卒業式の前日だった。


試験を受けていないため、本来なら卒業することはできなかったのだが、それまでの成績の優秀さがあったからか、最低の成績まで落とされることで卒業はさせてもらえたのだ。


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