「信じられねーよな、アイツら後先考えてねーんだぜ?今守りたいもののために、必死になってんだ」
「守りたい……もの?」



眼鏡の女性が、何のことかわからないと言った感じで、俺に聞き返す。

俺は肩を竦めて、やれやれと言った様子で答える。



「アンタらとの間に出来た絆だよ。赤い髪の二人、納得出来ないってアンタらに直接話付けに行ったんだろ?もっとお互いのこと、知りたがったんじゃないか?」
「ああ。『俺の名前はレックスだ』とか、急に言うもんだから驚いたがな。あの二人、人間の中でもかなりのお人好しだぜ」
「確かに、『私達がどういう性格をしているか』なんて言ってたしね」


その時の様子を思い出してか、二人はクスリと微笑んだ。



「少しは興味を持ってくれたから、もう一度話し合いの場を設けることにしたんだろ?」
「ええ、まあ……」
「俺はああいう甘い奴らに弱いからよ」
「ははっ、それ同感。まったく、目が離せねー奴らだよ」
「……ふふっ」
「おい、なに笑ってんだよアルディラ」
「そう言うヤッファこそ、にやけてるじゃない」



目の前の二人――ヤッファとアルディラは微笑を浮かべた。

二人に俺も笑顔を返し、戦闘が繰り広げられている方に顔を向ける。



「それじゃ、さっさと奴らを追い払おうか!アンタらも、協力してくれるよな?」
「勿論よ!」
「面倒臭ぇが、やってやるさ!」



その二人の言葉に笑みを深くし、俺は地面を蹴った。

全力で走り、負傷した様子の護人二人の前に飛び出す。



「よう、大丈夫か護人さん達?」
「グ、ム……」
「あなたは……?」



二人を庇うようにその前に立ち、背中越しに言葉を交わす。



「アティ達の仲間だ。ここは俺達に任せて、アンタらは下がっときなよ」
「しかし……っ!」


膝を突いていたシノビ風の青年が、立ち上がって反論しようとする。
しかし足に受けた傷のせいか、よろめいて言葉が中断される。

よろめく青年が倒れる寸前、ヤッファがその体を支えた。



「おいおいキュウマの兄ちゃん、怪我してんだから、無茶するんじゃねえよ」
「ヤッファ殿……」
「あなたもよ、ファルゼン?だいぶ消耗してるようだしね」
「あるでぃら……」
「アンタ達は、他の召喚獣を連れて下がってくれ。その数を守りながらじゃ、ちょっとキツそうだ。頼むぜ」
「……心得ました。助太刀、感謝いたします!」
「オマエモ……キヲツケルノダゾ」
「はいよ、ありがとね」



二人の護人――キュウマとファルゼンを下がらせ、俺は刀を構え直す。



「森に引き込んで、できるだけ集落から遠ざけて!」
「おー、任せとけ!」
「おう!」



アルディラが召喚術で牽制し、俺とヤッファが前に出る。



「カイル、レックス!出来るだけ森の中へ入れ!!」



前線で戦っているカイルとレックスに呼びかける。

二人は俺の声が聞こえたらしく、頷くと帝国兵を引きつけつつ、森の方へ入っていった。



「グルオォッ!!」
「そらよ!」



鉤爪付きの手甲を装備したヤッファが、帝国兵を思い切り殴りつける。
俺は腕を狙い、暫く武器が持てなくなるように斬りつける。

そうして攻撃しつつ、ヤッファと背中合わせになる。


「あれま、以外と数が多いな」
「ったく、面倒臭ぇな」



ぼやきながら、俺達を取り囲む帝国兵達を睨みつける。

近くにはヤードがいるものの、援護を貰うとなると少し距離がありすぎるな。
更に言えば、敵の数と戦闘開始時の状況のせいで、各個分断されつつある。



「時間は敵の味方だな。となりゃ、やることは一つ」
「おい、何する気だ?」



体は動かさず、怪訝そうにヤッファが聞いてくる。


「大将を叩いて、一気に決めるのさ!」


ベルトに装備している誓約済みのサモナイト石から、霊属性のサモナイト石を選ぶ。


「古き英知の誓約の元、今ここにユキが命ず……」


詠唱を始めると、魔力が渦を巻き、その余波が風となり吹き荒んだ。

何だこりゃ……俺の魔力なのか!?



「おいおいおい!何てデタラメな魔力してんだよ!?」
「い、いや、何つーか……」


あまりの事態に驚愕するヤッファだが、驚いているのは俺も同じだ。
突然すぎて、上手く返事が出来なかった。


今初めて気付いたが、俺の魔力は爆発的に高まっているらしい。

もしかして、シャルトスを手に入れたからだろうか?


ヤードはシャルトスを、召喚師の魔力を高めるものだと説明していた。
それは剣を媒介として召喚術を使用した場合の話だと思っていたが、まさか剣を所有しているだけで、ここまでの効果が出るとは。

まあ何にせよ、この状況では有り難いことだがな。



召喚の光とともに、黒いローブを纏った召喚獣が姿を現した。



「ブラックラック、黄泉の瞬きで道を開け!」



ブラックラックから放たれた闇の輝きに、周囲を取り囲んでいた帝国兵達が吹き飛んだ。

その威力たるや、普段の俺の召喚術の数倍はあるだろう。



「気ぃつけろよ!」
「はいよ!」



残った帝国兵達はヤッファに任せて、この連中を指揮している刺青の男めがけて駆け抜ける。


「邪魔だ、下っ端共!」


俺の進攻を阻もうと、目の前に立ちはだかる帝国兵達。
走る速度を落とさず、そのまま帝国兵達を刀の峰で打ち据え、気絶させる。



「何だよ貴様はァ!!」


俺の突撃に気付いた刺青の男が、こちらめがけて数本のナイフを投擲してくる。

刀で弾けば、不意の攻撃に対処出来なくなる。
俺は宙に身を踊らせ、飛来するナイフに沿って回転するようにそれを回避し、着地と同時に再び走り出す。


「何ぃッ!?」
「効くかよ、そんなすっトロイもん」


そのまま距離を詰めようとするも、男は大きく後方に飛び退きながら、召喚術の詠唱を始めた。

詠唱は思いの外早く終わり、俺が切り込める距離にギリギリ入る前に、召喚術が発動される。



「イヒヒヒヒッ!死ねェ!!」
「ちっ!」



あの早さで行える詠唱なら、そう威力の高い召喚術ではないだろう。

なら……一発耐えて、そのまま斬り込むしかねえかな。


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