「そんな……昨日まで、この場所は普通の森だったのに、どうして……?」
「アティ、ここは最初からこうなってたわけじゃねーんだな?」
「はい。以前はこの辺りも、他の場所と同じように木が生い茂っていたんですけど……」



たった一日にして、ここまで荒れたと……?


確かに、倒れた木の断面を見てみると、こうなってから大した時間が経っていないことはわかる。

誰がやったかと聞かれれば、まず真っ先に疑われるのは帝国軍だろうが――こんなことをする意味は、果たして向こうにあるだろうか。
ここを荒らしたところで、俺達に対する被害なんて皆無に等しい。兵を疲弊させるだけの無駄な行為だということは、あのアズリアなら十分承知している筈だ。


それにそもそも、倒れた木の断面は剣で斬ったものとは明らかに違うし、召喚術で吹き飛ばしたわけでもなさそうだ。



一体、何なんだ?



「取り敢えず、みんなにこのことを知らせよう!」
「そうですね。私とレックスで皆さんに声をかけますから、ユキはイスラさんを送っていって下さい」
「わかった。気を付けろよ、二人とも」
「ああ……帝国軍の仕業だって決まったわけじゃないし、相手の正体がわからない以上、油断は禁物だよ」
「ユキも気を抜かないで下さいね?」
「当然だ。イスラに怪我させるわけにはいかねーしな」



不安げな面持ちのイスラに微笑みかけてから、アティとレックスにも笑みを向ける。


不安を感じさせないような笑顔で答える二人は、笑みを交わした後頷き合い、それぞれ別々に護人達の元へ駆けていった。




「っつーわけだ。イスラ、俺から離れるなよ?」
「ユキさん、僕戦えなくて……その……」



不安げに、それでいて申し訳なさそうに俯き、上目遣い気味に視線を向けるイスラ。

その頭を軽くポンポンと叩き、ニコリと微笑みかける。


「ああ、大丈夫だから気にすんなって。こう見えて、結構強いんだぜ?」


刀の柄を握って悪戯っぽく笑い、イスラに向かって手を差し出す。


「離れないように、手でも繋いでおくか」
「あ……はい、有り難う御座います」



安心したように笑うイスラの様子に微笑みながら、手を繋ぎ、注意を怠らずに林の中をラトリクス目指して歩く。

林を荒らした犯人の正体が気になるところだが……それは護人達が集まってから、みんなで話し合えば何かわかるだろう。



取り敢えず今は、無事にラトリクスまで辿り着かねえとな。

荒らされた現場の状況を見るに、犯人がまだ近辺にいる可能性は十分にある。
決して油断は出来ない。


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