朝食を終え、片付けと洗濯を済ませた後、学校へ向かうアティとレックス、そして子供達を見送る。
どうやら家庭教師としてだけでなく、学校の教師としてもなかなか上手くやっていけそうだ。


甲板の船縁にある手摺にもたれ掛かり、刀の手入れをしながら、アティとレックスの顔を思い出してクスリと笑う。



こんな状況ではあるが、あの二人は教師としての新たな道を、精一杯歩いている。困難や課題はまだまだ多いのだろうが、それでもとても楽しそうで、充実した様子だ。
それに比べて……俺はどうだろう。


軍を辞めて、海賊として生きている?
新しい道を見つけ、前に進んでいる?



――そうじゃない。



俺は逃げてるだけなんだ。
未だに過去に囚われ、前に進むのではなく、それから逃げている。

俺にはーー何もない。何も残されてはいない。




「……やめよ」


思考を遮断させるべく、右手に握っていた刀を大きく横に払う。
そのまま下に勢い良く払ってから、鞘に収める。

カチリという冷めた金属音を聞き、大きく深呼吸をすると、幾分か思考が落ち着く気がした。




「さーってと!一息つくとしようかねぇ」


前髪を掻き上げながら、誰に言うともなく呟いてその場を離れる。


まるで、そこで思案していた事柄から逃げ去るかのように……。





外の厨房では、丁度ヤードがお茶を入れる所だったので、ついでに俺の分も入れてもらうことにした。



「へー、こりゃ凄い。俺が普通に入れるのと全然違う」
「はは、喜んで頂けて良かったですよ。お湯の温度や蒸らす時間を変えるだけで、風味や薫りが断然引き立つんです」



流石は自他共に認めるお茶好き。
嬉しそうに語るヤードが入れてくれたお茶は、仄かな苦味の中にもまろやかさが失われておらず、特有の青く香ばしい薫りが心地良く鼻腔を擽った。

これはそのうち、入れ方を教えてもらうべきだな。
コーヒーとは違った落ち着きを感じる。食後に是非……いや、食中でもいいかも?


その後暫く、他愛もない話をしながらお茶を啜っていると、珍しい人物が林へと続く道から現れた。
こちらが気付いたことを察したようで、ふわりと笑みを浮かべ、軽い足取りで向かってくる人物――機界集落の護人、アルディラ。



「よー、アンタがわざわざ来るなんて珍しいじゃん?」
「取り敢えず、おかけになって下さい。今、お茶を入れますから」
「気持ちは嬉しいけど、今日は用事があって来たのよ。だから、気を使わないで」



やっぱり、遊びに来たっつーわけじゃないみたいだな。

しかし、何か用事があるなら、世話役であるクノンに言伝を頼みそうなものだが……何故わざわざ、アルディラが直接来たのだろうか?
ヤードも同じことを考えているらしく、訝しげな表情を浮かべて首を傾げている。

単刀直入にそのことを尋ねてみると、アルディラは口に手を当て、クスクスと悪戯っぽい笑みを零した。



「ふふ……貴方達の顔をね、見に来たのよ」
「!?」
「あれまー、それはそれは光栄なことで」



アルディラって冗談とか言わなそうに見えるけど、結構な冗談言うんだな。
付き合ってみてわかる、意外な一面ってやつ?

目を丸くし、困惑した様子のヤードがあまりにも面白かったため、漏れ出す笑みを堪える……ことは出来なかったので、頑張って抑えてみる。



「顔を見に来たんなら、ゆっくりしながら見てけば?ほら、今なら無料で見放題だ」
「普段はお金でも取られるのかしら?って、まあそれはさて置き、ね」



肩を竦めて苦笑するアルディラに笑みを返し、ヤードが平静を取り戻したところで、本来の用事を訪ねる。


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