おはよう
辺里君と別れて数分。相変わらず堤防を歩いている私はのんびりと家への道を進んでいた。 このまま真っ直ぐ進めば家の近くに出るはず。迷わずに帰れるだろう。
しばらく歩いて、今朝見た家の近くの公園の前に出た。 夕日に照らされた公園はオレンジ色に染まっている。 夕焼けの空には数羽のカラスが鳴いていた。 公園を横切ることが家への近道。そのまま公園を突っ切ろうとすると、小さな泣き声が聞こえてきた。
「なんだろ…」
公園の脇に生えている木の陰から隠れるように公園をのぞくと、小さな男の子が泣いていた。思わず近寄って声をかける。
「どうしたの?」 「あそこ…ふうせん…」 「風船?」
男の子が小さな指で差したのは今私が隠れていた木だ。木の枝に赤い色の風船が引っ掛かっているのが見える。
「…高い」 「ふえ…っ」 「あーあー泣かないで!大丈夫!!」
自分で言ったが、なにが大丈夫なんだ。 さすがにこれ以上泣かれると私のハートが傷つく。傍から見れば小学生が小さな子をいじめるの図完成だろう。そんなの誤解だ。
風船は背伸びしても全然届かないところにある。木を揺らせば確実に空へと舞うだろう。木登りは苦手だ。 どうやって風船を取ろうか思考を巡らせていると、再び男の子の目に水が溜まっていく。 風船は後回しにして私は男の子をなだめることにした。しかし、子供はどう扱えばいいのか分からないから苦手だ。急に泣かれたらこっちが困る。 子供をあやすスキルなんて私は持ち合わせていない。そう考えている間にも男の子は今にも声をあげて泣きそうだ。どうする、私。
そう思った時、鞄が急に持ちあがった。 ふよふよと浮いている鞄は勝手に開き、中から卵が出てきた。朝の模様入りの卵だ。さっきタオルにくるんだ卵である。 さっき見たときと違うところは、その卵が光っている所。目を空けていられないくらいに光っているところ。
…ピキ
光っている卵に亀裂が入る音。ピキピキとだんだん音は大きくなっていく。
「割れ…!?」
カッと光った卵は、からがパーンと飛び散った。 光がまぶしくて思わず目をつぶると、脳内に誰のか分からないかわいらしい声が響いてくる。
『キャラチェンジ!』
目を開けると男の子が茫然とこちらを凝視していた。 そして何故か私の右手には、
「…帽子?」
黒いシルクハットがある。テレビで出てくるマジシャンが使うような帽子。 ちなみに左手には短いステッキがある。どうしてマジックグッズなんて私が持っているのだろう。さっきまで手ぶらだったのに。 肩には後ろ髪ではない何かがついていて、視線を無理やりずらすと赤いものがみえた。素材から見て多分リボン。 なぜ急にこんな格好に変わってしまったんだろう。今何が起こったの。
思考を巡らせていたらまた男の子の泣き声が聞こえてくる。 私は手に握った帽子とステッキを握り直す。これは使えと言っているようなものだ。
「…えっ」
物は試しだと思う。左手に握ったステッキを右手の帽子の鍔に当てると、なんとまあびっくり。中から何か出てきた。
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