帰り道にて



長そうで短かった転校初日の学校は終わりの時間に近付いている。
授業もすべて終わり、部活動などで残る生徒の声をBGMに廊下を歩き、職員室へ向かった。

「名字さん、学校はどうだった?」
「楽しかったです」

職員室に来た目的は、新しい教科書を受け取ることだった。受け取った教科書を鞄に入
れながら今日一日を振り返ってみる。
その際、さりげなく聞かれた担任の先生からの質問に素直に答えた。
実際残り数カ月で4年生が終わるけど、みんなとても話しやすくて過ごしやすかった。
でも、

「隣の席の日奈森さんが少し話にくいと言いますか…」
「ああ、日奈森さんね…」

今日の休み時間にとられた態度を思い出しながら言うと、先生も思い当たる節はいくつかあるそうで、苦笑いになっている。

「日奈森さんね、なんだかんだ言っていつも一人なのよ」
「そうなんですか?」

みんなが口々に日奈森さん、日奈森さん、と言う様子を見ててっきり人気者だと勘違いしていた私が居た。
確かに今日、日奈森さんを見ていると一人だけ輪の中に入っていなかったり、休み時間にフラリとどこかへ行ってしまい、話をするタイミングを逃していた。

「名字さん、もしよかったらあなたに少しでも日奈森さんとお話して欲しいの」
「はあ、」
「別にみんなから悪い印象は持たれてないと思うんだけど…大丈夫よ。」

先生は安心させるようにニッコリと微笑んだ。



学校を出た時は、もう空が茜色に色づき始めていた。冬ごろは空が暗くなるのが早い。
覚えたての道を歩きながら携帯を開くとメールが1件。母からだ。
内容は今日も仕事で帰れないとのこと。お弁当は家にあったはずだし買わなくても済むだろう。

「ふー」

ため息をひとつ吐き、空を見上げながらアスファルトの上を歩いていると、前方に河川敷があった。
完全に把握しきっていない土地をフラフラするのは大変危険な事だが、長く続く綺麗に舗装された道を見ると歩いてみたくなるものである。
近くの草にしゃがみ込むと、少しひんやりとした風が通り抜けて髪が舞った。
夕日が見えて絶景である。明日から毎日ここをランニングしようか。
ぼんやりとそんな事を考えていると、少しだけ視界が暗くなった。
後ろでガサリと音がして、条件反射で後ろを向いた。

「え、と…名字名前さんだよね?」
「…誰」

男の子だった。
金髪の細くてサラサラした髪に赤色の瞳。
チェックの青い制服を見ると、なんと同じ学校の生徒ではないか。しかも

「ケープ…」

生徒会の人である。


ニコニコしながら目の前にいる男の子は、私の隣の草の上に腰を下ろした。

「僕は4年月組、ガーディアンK(キングス)チェアの辺里唯世」

4年生で生徒会…な隣のクラスの辺里君とやらは、私の顔を見てニコニコと笑っている。
転校初日に同い年の生徒会の人に話しかけられるなんて、どんな漫画みたいな展開。
何故目の前にいる彼は私の名前を知っていて話しかけてきたのかが不思議である。やはり転校生というものは興味をそそるものなのだろうか。

「今日は名字さんにお願いがあって」
「…お願い?」

転校初日、初対面、そんな関係なのにお願いをするとはよっぽどなのだろうかと疑問に思う。普通、全く知らない人に意図的に直接お願いをすることなんてないだろう。

「名字さん、最近模様の入った卵を見てない?」
「あー…」

言われるまで思い出せなかったが、模様の入った卵と言えば朝ベッドの中にあったあの卵の事だ。
鞄の奥にある卵を、朝に包んだタオルごととりだした。タオルをひらくときれいな卵が一つ。

「これのこと?」
「そう、それのこと。」

ニコリと微笑んだ辺里君とやらは卵をじっと見つめてから私の目を見た。再びニコリ。

「きれいだね」
「そうだね…って、なんでこの卵の事知ってるの?この卵って一体、」
「んー、説明すれば長くなるなあ」

率直な疑問をぶつけると、人差し指を顎に当てて視線を上にそらした彼はそういった。流されそうになった、危ない危ない。
空もだんだん暗くなってきており、携帯のディスプレイを見ても良い子は家に帰る時間。
そろそろ帰らないと彼のご家族も心配するだろう。

「説明長くなるならしなくていい。ほら、時間」
「あ、本当だ」

携帯のディスプレイを彼の目の前に突きつけると、少し目を丸くした。

「説明はまた今度でいいよ」

まだなにか考え込んでいる彼にそう言うと、また考えるしぐさをしながら口を開いた。

「でも…。これは君にとっても僕らにとっても大事な事なんだ」
「僕"ら"?」
「うん。これについてはまた明日。明日の朝、教室で時間と場所を聞いてね」

辺里君は再びニコリと微笑み、手を振りながら駆け足で去って行った。

「…誰に聞けと」

夕日に照らされた卵はキラキラと輝いていた。





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