スーパーマジック



『じゃじゃーん!』

ステッキで帽子をたたいて出てきたのはちんちくりんな妖精みたいな生き物。手のひらに乗るくらいのサイズ。

「なにこれ…」
『名前ちゃん!ここはあたしに任せて!』
「は?なんで私の名前知って…」
『いっくよー!』

妖精みたいなの(仮)は、男の子の周りをくるくると回りながらさっき私がやったように、妖精(仮)の頭の上にある帽子を小さなステッキで叩く。
すると、中からたくさんの小さな紙の粉が勢いよく飛び出してきた。見てた私も思わずびっくり。
でもこんなのじゃあ男の子の涙は止まらないだろう、そう思った私の思考は間違っていた。

「マジックショーだぁ…!」

やけにキラキラした目でこちらを見つめてくる男の子。さっきの涙は引っ込んだようだ。きゃっきゃとはしゃぎながら妖精(仮)とくるくる回ってる。

とりあえず、男の子は帽子から出てきた妖精(仮)に任せて私は風船を取ることにしようと思う。
男の子から視線を外し、風船の引っ掛かっていた木の方に体を向ける。
木には相変わらず引っ掛かっているリンゴのような赤い風船。

だけではなかった。

「とれた」
「誰…」

風船があった木の上で、風船を片手に私を見下ろす男の人。
男の人は風船を持ったままきれいに地面に着地して(猫みたい)こちらに歩み寄ってくる。
ちなみにその男の人、肩になにかがいた。
猫耳が生えた小さな妖精みたいもの。さっき帽子から出てきたやつと同じ大きさだ。

「これ、取りたかったんだろ?」
「あ、ありがとうございます」

いつの間にか私の前にいた男の人は、スッと風船を私に差し出した。
誰だか知らないがとてもありがたい。
軽く頭を下げて、私は妖精のマジックを見て楽しそうに笑っている男の子のもとへ走った。

「あ、僕の風船!」
「はい、どうぞ」
「ありがとう!」

笑顔でお礼を述べる男の子を見て自然とこちらも笑顔になる。小さい子の笑顔には周りを幸せにするすごいパワーがあるのだと思った。
この風船はさっき貰ったのだと、嬉しそうに話す男の子の頭を撫でながら話を聞いていると、後ろから大きな声が聞こえた。

「こんなところにいた!」
「あ、おねーちゃん!」
「もー、どこ行ってたのよ!」

振り向くと女の子が一人、公園の入り口で肩で息をしながらこっちを見て叫んでいた。
どうやら女の子はこの男の子のお姉さんらしく、心配をかけるな、と男の子の額にデコピンをした(男の子は泣きそう)。
彼女の服はひどく見覚えのあるもので、今現在私が着ているものと一緒の赤いチェックのスカートとネクタイ、黒い上着。つまり、聖夜学園小の制服だ。
男の子が彼女の制服の袖をくいくいと引っ張りながら私を指さして言った。

「あのお姉ちゃんが風船取ってきてくれたの!」
「はあ?どのお姉ちゃんよ…えっ」

男の子のおかげでやっと私の存在に気付いた彼女は、私を見て驚いているようだった。

「せ、聖夜小の制服…。あの、もしかして四年星組に転校してきた名字さんですか?」
「は、はい」
「ええええ、今日転校初日でしたよね!そんなときに私の弟が迷惑かけてしまい大変申し訳ありません!」
「いえ、そんな…」

私のことを知っているということはおそらく同学年。同じクラスだったかもしれないけど、初日に全員の顔と名前を覚えることができるわけがないため、もちろん記憶にない。
男の子の頭を押さえながら何度も何度も頭を下げる彼女に、私は苦笑いしかできない。
しばらくしてハッとしたように顔を上げた女の子は、慌てて口を開いた。

「わ、私、隣のクラス…四年月組の者です!名字さんは噂に聞いてる通り、クールでかっこよくて美人で…!」
「はあ…」
「しかも私の弟を助けてくれる優しい心!名字さんって本当に素敵です!」

なんだこれ、早く帰りたいのに。
訳の分からないことを口走る彼女に若干ひきながら、片手で彼女のスカートの裾を引っ張る男の子の様子を見て、早く帰ったらどうかと提案すると、彼女は再びハッと顔を白くさせる。
どうやら彼女は晩御飯を作らなくてはいけないらしく(私とは大違いだ)、ありがとうございました!と頭を下げ、男の子と手をつなぎながらさっさと帰ってしまった。

これで私もようやく家に帰ることができるようだ。
一息ついていざ帰ろうと足を踏み出すと後ろからかわいらしい声が聞こえてきた。

『あのー…名前ちゃん…?』

ああ、この妖精(仮)のことをすっかり忘れていた。





[ 9/12 ]

[*prev] [next#]


戻る
TOP