お隣さん



先生の話も終わり休み時間になった。
現在私の周りには4年星組のほぼ全員が集まっている。窮屈。
転校生ならばこれしかないだろう。質問攻めだ。

「なんでこの学校に来たの!?」
「母の仕事の都合で」
「好きなスポーツは!?」
「球技は基本的に何でもできる。走ることが一番好き」

私は聖徳太子ではない。飛び交う質問から聞こえるものだけ答えていく。
比較的にありきたりな質問だが、その中にも私の反応してしまう質問もいくつかある。

「好きな芸能人は!?」
「…いない」

苦手なアイドルならいるんだけどな、とボソリと呟いた。


私は人混みがあまり好きではない。こうやって囲まれることも好きではない。
ふと隣の席を見ると、私の方を見ている日奈森さんと目があった。
日奈森さんはすごく迷惑そうな顔をしていた。この質問責めのやつらか。
質問もポツポツと減ってきたので、私は静かに周りに声をかけた。

「質問のない人は席についてくれるかな。日奈森さんがすごく迷惑そうにしてるから」
「えっ」

素直に告げると日奈森さんはとても吃驚した顔になり、周りの人たちも日奈森さんだからね…と言いながら(どういうことだ)みんな席に帰ってしまった。
日奈森さんパワーすごい。それだけ人気者なんだなあ、と思った。


静かになった机に肘を立て息を吐く。疲れた。
さっきから視線を感じる。日奈森さんである。
くるりと体の向きを日奈森さんの方へ向ける。なにか話すべきか。

「さっきはごめん」
「え、いや…転校生って大変だね」

とりあえず机の周りのクラスメイト全員集合の事を謝る。本当にあの顔は迷惑そうだった。
日奈森さんの表情は緊張しているのか固まっているし、視線をそらされたが、ちゃんと話せるだけ進歩である。

「まあね。転校生にはよくあるんじゃないかな」

ヘラリと笑いながら日奈森さんと会話をする。少しだけ日奈森さんの表情が和らいできた。

「あ、のね!あたしも半年前に転校してきたんだ」
「へえ」

人気者の日奈森さんが転校生だったとは。半年でここまで馴染むとはよくやるなあと思った。

「あたしの時もこんな感じで…緊張しちゃって…誤解されて…」
「誤解?」
「い、や…なんでもない」

再び表情のない日奈森さんに戻った。誤解ってなんだ誤解って。
そう思ったが、日奈森さんがもう聞かないでオーラを出していたので話題を変える。

「この学校って豪華できれいだよね。教室が全部一緒に見えたし」
「ロイヤルガーデンとか派手だよね」
「…ロイヤルガーデン?」

私の知らない単語が出てきた。なんだそれ。

「ガーディアンが放課後にお茶会する場所」
「ガーディアン?まって、説明して欲しい分からない」

次々と知らない単語が出てくる。母から知らされてない。
説明してもらおうと口を開いたらチャイムが鳴った。授業の後にでも聞くことにしよう。


そう思ってたのに。
授業が終わり、先生が出て行く。
その瞬間にまた私の席の周りに人が。さっきよりかなり少ない。
また日奈森さんが、と思い隣の席を見ると既にいない。なら大丈夫か(聞きたいこと聞けないけど)。
私の席の周りに集まったのは男女合わせて6人ほど。丁度いいと思い、さきほど日奈森さんに聞きそびれたことを聞く。

「私、まだこの学校来たばかりで分からないことが多いんだけど、よかったら教えてくれる?」
「はい!もちろん!!」

同じ年の子と話す事が慣れなくて(前の学校では常に一人だったため)、少し丁寧な話し方になってしまったが、快く彼女たちは教えてくれた。


話をまとめると、この学校には生徒会のような組織があり、それをガーディアンと呼ぶ。ガーディアンは"すっごく素敵でかっこよくて美人でイケメンでかわいい人たち"4人の集まり(名前も出してくれたけど覚えれない)で、"きらっきらのすっごくロイヤルな"ケープ(みんな目をキラキラさせていた)を着ていてすぐに分かるらしい。
ガーディアンは遅刻も早退もOKで完全な特別扱い、先生たちも一目置く存在なのだとか。
そして、そのガーディアンが放課後にお茶会をするのが、"大きくてきれいで花がたくさん咲いてて水が流れている"ロイヤルガーデン。

生徒会が専用の大きな建物でお茶会なんてやってていいのか、とか仕事はちゃんとやってるのか、と思ったが、聞くとちゃんとガーディアン主催の生徒総会を開くから問題ないらしい。
大体小学校に生徒会、特別扱いってどういうことか理解できなかったがそこはまた先生がたに聞くとしよう。
オーバーな表現もあったが、彼女たちの説明でなんとなくわかった。
しかし、分からないことは他にもある。

「そのガーディアンって4人?生徒会に入る人他に居ないの」

そう聞くと、みんなぽかん、とした表情になる。え、何か悪いこと言ったか。

「みーんな生徒会に入りたいと思ってるよ!」
「でも、ガーディアンからお茶会に誘われなければロイヤルガーデンすら入れないからね」
「へえ」

立候補制ではなく、生徒会側から生徒を誘うらしい。変わった生徒会だ。
たくさん教えてもらい、彼女たちに素直に礼を述べるとキャーキャー言いながら席に戻っていった。


まずは生徒会の人を見てみたい。そう思って特徴を思い出す。
かっこよくて美人でイケメンでかわいい。そして特別扱いも許される生徒。
そしてきらっきらのすっごくロイヤルなケープを羽織っている。

「ケープ…?」

朝学校まで連れてきてもらった女の子、ややちゃんの事を思い出した。
大きなリボンをつけ、赤いチェックのケープを羽織っていたあの少女、まさか生徒会の人か。
意外と身近にいるものだな、と吃驚したが、私より年が下であろう少女が生徒会なことにも吃驚する。

再び授業開始のチャイムが鳴る。私は前を向いて授業に集中することにした。
そんな私を隣の席の日奈森さんがじっと見ていた。打ち解けるまでもっと時間がかかりそう。





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