4年星組
ややちゃんと別れ職員室へさっさと歩いていく。 その時に学校の生徒たちに珍しい目で見られているが、転校生なのだから仕方がない。 適当な勘を頼りに職員室までたどり着いた私は、ここに来るまでの道のりを思い返していた。 この学校はとてつもなく広い。すぐに迷いそうになる。 私は方向音痴ではないが、ここは誰でも迷いそうな校舎。どの部屋もきれいだ(校舎の外見なんてお金持ち校にしか見えなかった)し、見た目も全部一緒。間違えて他の教室に入っても気づかないだろう。 そんな校舎の中のこの部屋をちゃんと職員室だと確認し入る。3度確認した、大丈夫だ。
「失礼します。転校してきた名字名前です」
ドアを開けて一礼。顔をあげると目の前にはふわふわした雰囲気の女の人がいた。
「初めまして。あなたの来るクラス4年星組は私が受け持っているの。よろしくね」
よろしくお願いします、と頭を下げる。 ふわりと微笑んだ女の人は担任の先生らしかった。 私が転校してきたのはとても中途半端な季節。新学期まで待てない母の都合で肌寒い季節に転校してきた。 だからこの先生との付き合いも数カ月のみだ。いい先生だと思う。少し寂しい。
「早速教室へ行きましょう」
再びふわりと微笑んだ。すごく女らしい先生だ。
彼女に連れられ、同じ景色の校舎を歩いて回る。ぴたりと前を歩いていた先生の足が止まり上を見上げると、4年星組と書かれたプレート。 どうやらここが今日から数ヶ月間、私の過ごす教室らしい。(しかし、やっぱりどこも同じ教室に見える)
「私が合図をしたら入ってきてね」
そう言うと、先生はガラリとドアを開け教室へ入って行った。 みなさんおはようございます!とあいさつをする先生の声が聞こえ、その直後に元気な4年星組のみんなのおはようございまーす!の声。 教室の中から見られないように、ドアの裏で耳を澄まして中の様子を探る。
「突然ですが、今日はこのクラスに転校生が来ます!」
先生の突然の発言に教室から、えー!?などの叫び声が上がった(もうドアから中をのぞいてしまっている)。
「先生!その転校生は男の子ですか!?女の子ですか!?」 「かわいいですか!?かっこいいですか!?」
ハイハイ、とたくさんの手が挙がっている教室内を先生が手をパンパンと叩き沈めた(こういうところは教師はすごいと思う)。
「はいはい、質問は後で。今から本人に登場してもらうのでみんな静かにしてね」
その言葉でみんな背中が急にピッと伸びた。ちなみに手はおひざ。 先生の方を見ると視線で合図をされた。静かにドアを開ける。 教室へ一歩を踏み出すと、中に居た人たちの視線が一気に集中するのが分かった。 先生の横まで歩いていくと先生に、黒板に名前を、と言われた。定番のあれか。 体を黒板に向け、きれいに整頓してある黒板のレールから白いチョークを一本拾い、持つ。 黒板に縦に少し大きく名字名前と書いた。 チョークを置き、くるりと方向を変えてたくさんの視線を正面で受ける。
「それでは名字さん、自己紹介を」
安心させるためか、私と目が会うたびに先生はふわりと微笑んでくれる。 心が少しだけ軽くなった。大きく深呼吸をして前を見た。
「今日からお世話になります、名字名前です。まだ慣れないこともあると思いますが仲良くしてください。よろしくお願いします」
頭を下げて一礼。拍手の渦に包まれた。
「名字さんの席は…日奈森さんの隣でいいかしら?」
先生が考えるしぐさを見てポツリと呟いた。その瞬間、教室全体からおお、と盛り上がる声。その後、日奈森さんの隣なんて羨ましい!という声や、ずるい!という声が聞こえてきた。 どうやらその日奈森さんとやらは人気者らしい。 キャーキャー騒ぐ中に、一人だけピンクの髪の女の子だけが眼を見開いてギョッとした顔をしてこちらを見ていた。あの人が日奈森さんだろうか?
「先生、日奈森さんってあの子ですか?」
ピンクの髪の子の方を見ながら先生に問いかけると、先生は首を縦に振った。
「ええ、そうよ。仲良くしてあげてね」 周りが騒いでいる間に私は自分の席へと歩いていった。そこで日奈森さんと目が合う。
「名字名前。よろしくね」 「あ、あたし日奈森あむ。よろしく…」
ボソリと呟いた日奈森さんは、自分の名前を言うとふいっと窓の外へと視線を変えてしまった。 そっけないな、と思いながら前を向いて先生の話を聞く。恥ずかしがり屋なのか元からこういう性格なのか。 隣の席なので色々と世話になることもあるだろう。少しは打ち解けたいと思った朝の事。
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