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「そういえば宮原くんさ、いっつもマスクだよね」
ラーメンを食べようとマスクを顎にかけたとき、ふと真夏くんが呟いた。
「え・・・あ、うん」
内心戸惑いながらうなずけば、真夏くんはラーメンをすすった。
「んーと・・・・それ、家でも?」
「あ、いや・・・さすがにそれは・・・・」
「うん、だよねー。で、志摩ん家では?」
なんだかさっきから真夏くんは志摩に繋げているような気もするけど・・・・
まあ、友達だからかな?
「さすがに、それも・・・・・前髪はこのまんまだけど」
俺もラーメンを食べ始めた。
ちょっと前のめりになるだけで邪魔になる前髪は、今では慣れた存在だ。
顔を隠そうと伸ばしたものから、切ろうとも払おうとも思わない。
「まじかあ・・・・」
「?・・・なにが?」
「いや、なんでもない・・・・」
真夏くんは少し笑って、またラーメンを食べ始めた。
それを見て俺も食べる。
昔から好きだった味噌ラーメンは、初めて来た店でも美味しかった。
*
「晩ごはん、付き合ってくれてありがとう」
「ん、いーよー。俺だって付き合ってもらったわけだしね」
ラーメン屋を出たあとは近場をぶらぶらしていた。
真夏くんはたまに外で食べるみたいで、その毎回のお供は岸本くんらしい。
本当に仲がいいなあ、と思う。
「んでね、俺と岸本中学んとき同じ部活だったんだけど、つるむようになったのって引退してからだったんだよねー」
「へー、意外だね」
「でしょ?きっかけは・・・・うん、普通に放課後話したのだったかなあ。学力的にも似たり寄ったりで、同じ学校受かってたんだよ」
「そっかあ・・・・・」
俺の場合、高校に同じ中学の奴はいても話していない。そういう風に仲がいい奴もいるけど、クラスも離れているし帰り道も違うから疎遠になってしまった。
懐かしいなあ、なんて思いながら真夏くんの話を聞く。
「──そういえば宮原くん、何時くらいに帰る?」
唐突に真夏くんが聞いてきたとき、ちらりと確認した時計は8時を指していた。
いつもならもっと・・・・10時くらいまでいるんだけどなあ。
「うーん・・・・・・・真夏くん、は?」
はぐらかしてしまったことに少しだけ胸が痛む。
自分の事情がすぐに言えないから自分にも嫌気がさすし。
でも、真夏くんはそういう性格なのか気にしていないのか、同じように時計を確認してからへらりと笑った。
「いつもは岸本と10時くらいまでいるんだけど・・・・・よかったら、まだ付き合ってもらえない?」
「い、いいの・・・・?」
思わず聞き返してしまった。だってまるで、俺の心を読まれたような気がしたから。
すると真夏くんは笑顔を崩さずに呟いた。
「・・・まあ、あんまり遅いと志摩に怒られそうだけど」
「え・・・なんで志摩?」
「あー・・・・・・・まあ、気にしないでー」
そう言って笑った真夏くんがなんだか楽しそうだったから、たいして気にはならなかった。
俺にわかりそうな話でもないし。
「んじゃあ、どこ行こう?今日はたまり場に人少なそうだけど・・・・ああ、2人はいるかなあ」
真夏くんは何かぶつぶつと呟きながらケータイをいじっている。
そして、顔を上げた。
「志摩と出掛けるの多くなるんなら、多分俺らのたまり場にも来るよね?ってことで、一緒に行こう」
「その・・・・たまり場ってとこ?」
「そうそう。そう呼ぶから"不良"って呼ばれちゃうんだけどね」
確かに、"たまり場"って言ったら不良みたいだ。
「すぐ近くなんだあ。前、志摩と一緒に来たとこあるでしょ?あの通り進んだとこなんだ」
「へえ・・・・どんなとこ?」
「んーと、バッティングセンター」
バッティングセンター・・・・・?たまり場?
なんだかイメージしていた"たまり場"とはずいぶん違うみたいだ。
そんな俺のはてなに気づいたのか、真夏くんがクスリと笑った。
「まあ、"たまり場"ってイメージじゃないけど・・・・・・営業が終わるとね、イメージに合うとこになると思うよ。」
気づいたら、その例の通りに来ていた。
そこまで歩かないうちに、バッティングセンターの看板が見えてくる。そのライトは消えているが、店内の明かりはついていた。
それと、若そうな笑い声が漏れている。
「今日いるのは宮原くんは会ってないメンバーだね。前は赤髪と黒髪の先輩と俺と岸本だったでしょ?今日のは残りの2人でね、多分怖くはないから───」
真夏くんはそう言いながらドアを押した。
受け付けと、2つのソファーとテーブル。それと、そのテーブルで将棋をする男子高校生2人(金髪と茶髪)と、受け付けカウンターでタバコをふかしている・・・・・20代の真ん中くらいのお兄さんで人は3人みたいだ。
「王手」
「残念でしたー」
「・・・王手」
「また同じような・・・・って、あれ?」
「・・・・・・チェックメイトですよ、先輩」
「・・・次はチェスがご所望で?」
・・・・・・って、あれ?
あのちょっと性格の悪そうな会話してる茶髪の奴、見覚えというのかもろそうというのか・・・・
そう思っていたら、不意に顔を上げたそいつと、目があった。
「「あ」」
「裕弦?」
「宗、真?」
ああやっぱり、あいつだ。
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