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- 宮原 視点 -
月曜日、家のドアを開けながら志摩の家に帰るにはまたこの5日間を過ごさなければならないと思った。
「ただいま・・・・」
いつからだろう、「おかえり」という声を聞かなくなったのは。
玄関には父の靴と、知らないハイヒール。
この家族に女の人なんていないのに。
やけに薄暗い廊下を歩いて、階段に足をかけた。ふと、父さんの部屋を見る。
明かりが漏れていた。・・・同時に、女の人の喘ぎ声も。
──また俺は、この家で見ないふりをしなければならない。
急いで階段を上がって、自室のドアを閉める。
今まで詰めていた息を、やっと吐き出した。
*
結局、晩ごはんを作らなきゃならない時間になっても女の人は帰らなかった。
だから、いつも通り着替えて財布を掴む。
数個だけの必要な物を詰めたリュックを背負い、静かに家を出た。
「あれ、宮原くん?」
「あ、真夏くん・・・・」
今日の晩ごはんをどうしようかと悩みながらぶらぶらしていたら、見知った顔に出会った。
真夏くんの髪は茶髪で大人しいが、服装は青と黄色と白、という派手な色をしていた。
「どうしたの?」
「あー・・・・晩ごはんを、食べに・・・・・」
怪しまれるかな。
なんで1人で晩ごはん?って、なんで外で?って思われるのかな。
俺がゆっくりと真夏くんを見ると、彼はなんでもなさそうに笑っていた。
「あ、じゃあ俺もご一緒しようかなー。今日は岸本いないからさあ」
「えっ・・・」
「あ、ダメだった?」
「いや、全然・・・・」
むしろ、2人のほうがいいかも。
俺が慌てて首を振ると、真夏くんはにこりと笑った。
「じゃあ、俺の行きつけの店、連れてってあげるよ」
「ラーメン屋・・・・」
「うん、安いし上手いしサイコーだよ」
真夏くんは慣れた態度で店に入り、端っこの席に座った。
「宮原くん、何食べる?」
「えっと・・・味噌ラーメン」
「好きなの?」
「・・・・うん」
真夏くんは意外そうに「へぇー」と呟くと、また顔を向けてきた。
なぜか目が楽しそうに輝いている。
「それ、志摩知ってる?」
「志摩?知らないんじゃないかな・・・」
「お、ラッキー」
・・・・何がラッキーなんだろう。
唐突に志摩が出てきたのもわからないけど。
「まあ、気にしないで。」
真夏くんは俺が思ったことがわかったのか、へらりと笑ってそう言った。
そして店員さんを呼び、俺の分まで注文してくれた。
「よーし。・・・・あ、宮原くんって学校で志摩と一緒にいるの?」
真夏くんは唐突にそう訊いてきた。
なんだか好奇心たっぷりですという目をしている。
「まあ、たまに・・・?自由班だと、入れてくれるようになった・・・・・・けど、前からもちょっと入れてもらってたことはあって・・・」
「え、志摩が?」
「ううん、志摩の友達・・・・南条くんっていうんだけど、その人が声かけてくれて、」
ふと顔を上げたら、真夏くんは意外にも驚いた顔をしていた。
どうしたんだろう、と顔をうかがうと、おもむろに口が開いた。
「その、南条、知ってる奴かもってか、知ってるわ」
「えっ・・・?」
「たまってるグループは違うんだけど、よく近く通るんだよね。だから通ったときは雑談してるんだ。・・・志摩と同じ学校で仲いいのは知ってたけど、まさか同じ班になるくらいとら思ってなかったなあ」
「え・・・そんな感じなの?」
学校での2人は、というのか南条くんは割りと志摩に引っ付いてる感じだから。
「んーまあ、街で会ったら大体俺と話してるからかな?そんなに志摩にくっついてるわけでもないし、学校での話とかもそんなだし。なんか意外ー」
真夏くんが小気味よく笑い声をたてたところでラーメンが来て、とりあえずその話題は中断になった。
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