17
森 宗真(もり そうま)と一緒に交互に説明していたら、真夏くんが「ちょっと待って」と言って話をまとめてくれた。
「えーと、つまり2人は同じ中学でよく一緒にいたいわば親友、みたいなものってこと?」
「ああまあ・・・そんな感じだよな」
「うん・・・」
「へえ、いいなあ」
ソファーに座る宗真の後ろから呟きを漏らしたのは、羽間 航太(はざま こうた)という同じ高校の先輩だ。
金髪に茶色のメッシュをしているからすごいチャラそうっていうのか先輩っていうのもあって怖そうに見える。
それを宗真に言ったら小声で「本業は不良で怒らしたらヤバイけど、普段は人からかうの趣味にしてるから大丈夫だよ」って言われた。どの辺が大丈夫なのかが全くわからない。
「なんでですか」
「それ聞いちゃう?宗真クン」
苦笑しながら宗真の頭を小突いている。
どうやら仲がいいみたいだ。
「でもさ、宗くんも大人しい系だし宮原くんも言わずもがなだから2人で何してたの?」
真夏くんが本気で悩んでいるみたいに訊いてきた。
俺は中学時代を思い出す。そういえば宗真とは、3年間クラスが一緒だった。だから自然に2人でいることが多くなった感じだった気がする。
「何してたって・・・普通に、一緒に下校したりテスト前に勉強会したり、そんなとこ」
「へー、あんま会話とかなさそうだけど」
「さっきから真夏、なんかひどくね?俺らだって会話くらいはするよ。なあ?」
「うん、結構喋り通してた気がするけど・・・」
「へー、意外ー」
「先輩までっすか」
宗真の言葉に真夏くんと羽間先輩がクスクスと笑った。
ああなんか、大分居やすい雰囲気だなあ。
「そういえば、裕弦はなんで真夏と知り合いなの?」
宗真が不思議そうに言った。
確かに、真夏くんとはそもそも学校が違うから接点がない。
それに、前一緒になったときにいなかったから知らないのだ。
「あー・・実は、志摩と仲良くなって・・・・」
「・・・・・あー、同じクラスだっけ?だからかー」
宗真はいつも、俺が全部言わなくてもわかってくれる。
なんだかそれが懐かしかった。
「じゃあ、その肝心の志摩は?」
「え・・・・特に今日は、会う日じゃないし・・・」
「会う日とかあるの?」
俺がついうっかりこぼすと、真夏くんが食い気味でのってきた。
あー、これはどこまで言っていいんだろう。志摩がいないとわかんない。
「えーと、なんかこう、週末に会うみたいなリズムになったから・・・って感じで」
「へー」
「ふーん」
「あの志摩がねぇ」
なんとかオブラートに包んで言うと、真夏くんだけじゃなく宗真と羽間さんも反応してきた。なぜたか楽しそうにニヤニヤしている。
その意図がわからず頭にハテナを浮かべていると、ぐいっと真夏くんに肩を組まれた。
「まあ気にしないで。それよりはい、ちーず!」
──パシャッ
・・・・・・パシャ?
真夏くんの手の先にはスマホが握られていて、俺の間抜け面と真夏くんの笑顔が写っていた。
「・・・え、え?」
「まあまあ。宮原くんと志摩が一緒にいないタイミングじゃないと一緒に写真なんて撮れないからね。ありがとねー」
「い、いえ・・・・・?」
真夏くんの笑顔にずるずると流されるままに頷くと、宗真がクスクス笑っているのが見えた。ついでに、羽間さんも。
「まあね、気にしないでねー。それより宮原くん、そろそろ帰る?」
「え、ああ」
真夏くんにそう言われて時計を確認すれば、そろそろ10時。ずいぶん長い間外にいたらしい。
「そうだね・・・・・帰ろっか」
・・・・・・本当は、って思うけど、我慢しなくちゃ。
視線を感じて顔を上げれば、心配そうにこっちを見てくる宗真と目が合った。
宗真は俺の事情を知っている数少ない友人、まだ心配してもらえていることに少しだけ安心した。
俺は宗真に小さく首を振ってみせた。宗真が煮え切らない表情をしたけど、そこは無視させてもらおう。
「じゃあね、宗真。羽間先輩も、また」
「おう・・・・」
「ばいばーい」
多分今の宗真には羽間さんがいて、彼が俺を心配する余裕なんてなくなってくるだろう。
・・・・・だから、これでいいんだ。
「宮原くんってどこ駅ー?ってか何線?」
外に出て、真夏くんが最寄り駅に歩き出しながら聞いてくる。
路線名を告げれば、同じだと言われた。
「じゃあ途中まで一緒だねー」
「うん、そうだね」
真夏くんは何やらスマホをいじっている。
しばらくすると、にやりとイタズラを仕掛けた子供のように笑ったままその画面を向けてきた。
「・・・え?」
「へへー、志摩への嫌がらせー」
真夏くんは楽しそうにそう言った。
嫌がらせ・・・・?
さっき撮られた俺と真夏くんが写っている写真を送って、なんの嫌がらせなんだろう。
よく目をこらしてみれば、『宮原くんとラーメン食べてたまり場行きました乙』と書いてある。
・・・・それでも、なんの嫌がらせかはよくわからなかった。
俺が首をかしげるのを見て真夏くんはふふっと笑うと、また何回かタッチしてからスマホを閉まった。
完全にしたり顔だ。
「まあ宮原くんは気にしないで!」
さっきから彼はなんだか気にしないでというのを多用しているが、それには気づかなかったフリをして駅の中に入っていった。
*
俺はまた、この真っ暗な家のドアを開けて呟くのだ。返ってきもしない呼び掛けの言葉を。
どうやら父さんは出掛けているらしい。
とりあえず息を吐いて洗面所に向かえば、小さな小物が目に入った。
───指輪、だ。
それは父のものだった。
・・・喉に何かが詰まったような圧迫感を感じる。
すぐにその場を離れようと思ったが、案外体は疲れていたようで。しょうがなくその場にうずくまった。
目を閉じれば浮かぶのはあの家で。俺が逃げ込むように転がり込んだあの暖かい空間と、毎晩感じることができる体温で。
「っ・・・・」
これが"依存"だなんて、とっくにわかってる。
- 宮原 視点 おわり -
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