一蓮托生
澄みきって凛としている空気と、辺りに立ち込める神秘的な朝霧。
しかし彼には、束の間の早暁の贈物を楽しむ余裕は全く無かった。
「あー…、疲れた。」
ヘルガヒルデの居城、即ち実家へと続く歩き慣れた敷石を踏み締めながら、リュユージュは一人そう呟く。
「おかえり、リューク。」
彼の姿に気が付いて玄関まで迎えに出たヘルガヒルデは、軍議の最中の彼女からは想像も難しい程の穏和な表情を見せる。
「おかえりと言われても、僕の今の家はここじゃない。」
「君の好物ばかり作ったんだ。今、用意する。」
「その前に、何か言う事があるでしょう?」
「あ、お風呂?」
「入らない。」
リュユージュは噛み合わない会話に溜息を吐きながら居室のソファに軍服の上着を放り投げると、その隣に身を沈めた。
食卓を彩る様々な料理をリュユージュは黙々と平らげて行く。
「どう?美味しい?」
「ん、別に。不味くない。」
「どうして君はそう、捻くれているのかな。」
「母親に似たんじゃない。」
「で?」
「で、って?」
彼は合間で一口、水を飲む。
「説明してくれなきゃ分からないよ、俺。」
「だからその前に、僕への謝罪が先だと思うんだけど。」
「はあ?謝罪?何で?俺が?君に?」
「…もういい。」
何と、ヘルガヒルデはクラウスを退けての自軍の編制や策戦を統制する権利を掌握したにも関わらず、あの直後「飽きた」と言って帰ってしまったのだ。
結局は通常の軍議と変わらず、クラウスが編制や策戦を練り上げる結果となった。
レオンハルトの件も相俟って、リュユージュは散々そのとばっちりを食わされる羽目になったのだった。
「何で僕が親の不始末を処理しなきゃならないんだよ。普通、逆じゃないか。」
「不始末と言えば君、友達はどうした?恩赦がどうこうって言ってた。」
「うん、元気だよ。御蔭様で。」
リュユージュが完全に信頼し、そして依拠としている優秀な頭脳とは、自身の母親であるヘルガヒルデの事だったのである。
「でも別に、友達じゃない。」
その言葉を聞いたヘルガヒルデは、声を出して笑った。そんな彼女の態度を理解出来ず、リュユージュは首を捻っていた。
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W.A