満腔春意



「ほい、これ。検査結果だと。」

書斎にてリュユージュはマクシムから一通の報告書を受け取った。

━━やはり、毒物は検出されなかったか。

内容は、一昨日のドラクールの吐瀉物の成分分析の結果だ。

━━僕も同じものを食べたし、だいたい基地の食堂が提供している食事なんだから毒物の混入があったら大規模な騒動になるに決まってるもんな。

彼は顎に手を当て、結論付けた。

━━精神的なもので間違いなさそうだ。



「何かあったのか?」

「いや、問題ない。」

彼が報告書を丸めて屑籠に捨てると同時に、ユーリスィーズが扉の外から声を掛けて来た。

「失礼致します、リュユージュ司令官。入室致します。」

「うん。」

両手が塞がっている為、ユーリスィーズは腰で扉を押し開け、机の上に大量の書類をどっさりと積み上げた。

「よいしょ…っと!」

その数にうんざりしたリュユージュは椅子の背凭れに寄り掛かり、せめてもの抵抗の姿勢だと言わんばかりにずるずると体を滑らせる。

「一般公募の第二次筆記試験合格者の一覧です。ご確認をお願い致します。」

「待って。一覧になってない。」

リュユージュの指摘の通り、各々の情報が一枚一枚に記載されているようだ。

「ええ、まあ、はい。そうみたいですね。」

「嘘だろ、これ全部見るの?僕が?」

「確認後、こちらに押印をお願い致します。それでは、私はこれにて失礼致します。」

ユーリスィーズはリュユージュの言葉を意にも介せず、退出して行ってしまった。

その量の多さに、マクシムもあんぐりと口を開けている。

「無理…。眠い…。」

近頃の睡眠不足がたたっているリュユージュは気怠そうに、そのままの体勢で天井を見上げた。



「おーい!」

肩を揺すられたリュユージュの手から、一枚の書類がひらりと落ちた。

「大丈夫かよ?少し仮眠を取った方がいいんじゃねえか?一時間したら起こしてやるから。」

「あー…、うん…。」

彼はマクシムの提案を受け入れた方が得策かと迷いながら、足元の書類を拾い上げた。

「そうだね。そうさせてもら━━、…っ!」

途端、リュユージュはがばっと顔を上げてマクシムに向けた。

「今、何時!?」

「え。十時…、もうすぐ半ってとこだが。」

彼は勢い良く椅子から腰を上げると、上着とネクタイを引っ掴んだ。

「ちょっと出て来る!昼までには戻るから!」

「は!?おい、仕事(コレ)は!?」

先程リュユージュが拾い上げた書類に彼の上着の裾が引っ掛かり、再び床へと落ちた。体調と進捗を心配するマクシムは溜息を吐きながら其れを拾い、机に置いた。

見るとも無しに、書類の右上に添付された赤毛の男の証明写真がマクシムの視界に入った。






城下町を早足で抜けるリュユージュは途中で、一件の店に立ち寄った。

━━手ぶらって訳に行かないよな。と言うか、考えなしで出て来たけど平日の午前中に家いるか?

到着した先の、お世辞にも綺麗とは言えない住居の扉を彼は四回叩いた。

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