「はーい。」

室内から若い女性の声が聞こえ、リュユージュは髪の毛を簡単に手櫛で整えた。

「どちら様?」

玄関の扉が開かれると同時に視界に彼を認めた女性は、絶句する。

「…っ!」

そして次の瞬間、彼女は大声で叫んだ。

「ぎゃーっ!」

「だから何なんだよ、その反応。」

「ど、どうした!?」

悲鳴を聞き付け、室内からばたばたと若い男性が玄関に掛け付けた。

「お久し振り。ギル。」

「た、た、た、隊長さん!?」

リュユージュの訪問先とは、ギルバートとアンジェリカの自宅であった。






「ほんの気持ちだけれども、お祝い。」

リュユージュは手にしていた紙袋を、ギルバートに渡すべく差し出した。

「…え?」

吃驚して瞠目するギルバートは、紙袋と彼の顔に交互に視線を遣った。

「今、海兵隊の乗組員一般公募の第三次受験者の閲覧をしていたんだ。そうしたら、君の名前があったから。」

「第三次!?」

アンジェリカが食い付くように身を乗り出す。

「と言う事は、第二次は合格なの!?」

「試験の点数では、合格という結論で間違いないかな。後は僕が認証を済ませば、近日中に第三次試験の案内が郵送される手筈だ。」

その言葉にさっと顔色を変えた二人を、リュユージュは不思議そうに見詰める。

「あなた、その為にうちに来たって訳!?」

突然、アンジェリカが声を荒げた。

「私達にどうしろって言うのよ!!賄賂でも贈れって事!?」

「…。誤解を招く言い方をしたのは謝るよ。認証って言っても、そういう意味じゃない。僕個人に合否の決定権はないよ。」

彼女の発言を不愉快に感じたが、自身の立場を考えるとそう捉えられてしまうのは致し方のない事だと、リュユージュは思い直した。



「人の話し聞いてた?お祝いって言っただろ。」

彼は押し付けるように、焼き菓子の入った紙袋をギルバートに半ば無理矢理に受け取らせた。

「それより君達は僕の事、どんだけ外道だと思ってんだよ。今更賄賂を要求するくらいなら、最初から面倒事に首を突っ込むもんか。」

ギルバートは身の置き所がないと言った表情を見せた。

「あ、取り敢えず上がってくれよ。汚いし狭いけど…。」

「うん。お言葉に甘えてお邪魔します。」



「あの…、ごめんなさい…。」

アンジェリカは紅茶を差し出しながら、リュユージュに謝罪する。

「別に。」

彼は冷淡な態度で、それに口を付けた。

「あなた、きちんとノックを四回してくれたんだから、そんな事ある訳ないわよね…。本当にごめんなさい、失礼な事を言ってしまって。」

ノックの数には意味がある。四回は公式的な儀礼用、つまり相手に敬意を払う事と同意義なのだ。

「へえ。君、そういう礼節を弁えてるんだ。令嬢だったって話し、信憑性あるね。」

「失礼ね!これでも私の母は高級将官なのよ!」

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