一念通天
太陽は西の地平に傾き、宵闇が直ぐそこに迫りつつある時刻。リュユージュはドラクールを伴い、宿舎へと戻った。
「夕食は手配してあるから、届いたら受け取っておいてくれる?僕は先にシャワーを浴びて来るね。」
彼は上着をばさりとソファに放り投げると、浴室へと向かった。
「なんだ、先に食べてて良かったのに。」
二人分の食事を前に、ドラクールはちょこんと温和しく座っていた。
「冷蔵庫のものも自由に飲んで構わないよ。と言っても僕は下戸だから、酒はないけどね。」
「げこ?」
「酒が飲めないって意味。」
リュユージュは髪の毛を拭きながら水を取り出すと、彼の前に置いた。
「明日からは、僕の事は待たなくていい。食事が届いたら済ませておいて。」
「ああ。分かった。」
頂きます、と、ドラクールは手を合わせると食事に手を付け始めた。
「君、魚は食べられるの?」
「血の臭いがキツい奴は苦手だな。鰹とか鮪とか、鯨とか。」
先頃ドラクールが語った凄惨な過去が、リュユージュの脳裏を掠めた。
━━血の臭い、…か。心的外傷後ストレス障害か何かなのかもな。
「あと、脂が強いのも。でも只の好き嫌いだから出されれば普通に食えるけど、何故か腹を下すんだよ。」
「それ、好き嫌いとは言わないと思う。君の体質に合わないと分かっているものをわざわざ出さないから、安心して。」
先に食事を終えたリュユージュは寝室から毛布を持って来ると、背凭れの上着もそのままにソファにごろんと横になった。
「脱衣場にタオルと着替え、置いてあるから。君はベッドを使って。」
「お前、其処で寝んのか?」
「…ん。」
そう返事をした数分後には、リュユージュは寝息を立てていた。
━━すげェ寝付きがいいんだな、こいつ。と言うより、それだけいつも疲れてんのか?
ドラクールは食事の途中だったが、リュユージュに気を遣い部屋の電気を消した。月夜の為、窓からの明かりだけで彼には充分だった。
殆ど家具が置かれていない事も相俟って、寝室はとても広く感じる。一旦はベッドに入ったドラクールだったが少し肌寒さを覚え、何か羽織り物を借りようとそーっとクローゼットを開けた。
以前のマクシムと同様、その刀剣を目にした彼は息を呑んだ。
しかしマクシムとは異なる点は、ドラクールは数に驚いた訳ではなかった。
月光すらも避けてまるで隠すように置かれていた、二本の刀剣。
ドラクールはその存在感に意識を奪われ、引き寄せられるように手を伸ばして触れた。
━━っ!?
途端、目眩に襲われた。
「…うっ。」
ドラクールはその場に蹲り、床に倒れ込んだ。
━━な、何だ、今の…!?
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