撥雲見天



フェンヴェルグは緊急国家安全保障会議の開催を宣言、二十余名に召致命令を出した。

聖王の下に集うは、以下の者達である。



ヴェラクルース神使軍 統帥 ベネディクト・クロイツァー。及び、筆頭大将 クラウス・キアストス。

キャンベル海軍 提督 ヴィンス・ブレイアム。以下、将官 五名。

キャンベル陸軍 将官 十名。

キャンベル海上保安庁 長官、次長。

そして、国防軍海兵隊 最高総司令官 リュユージュ・ルード。及び、将補 マクシム・オルディア。



各々、自身の名前が記された席に着く。

リュユージュとマクシムが着席すると同時に、とある会話が二人の耳に入って来た。

「元気そうだな、ヴィニー。」

ヴィンスに声を掛けるは、海上保安庁長官を担うゼルクという名の耆老(キロウ)の男だった。

「どーも、お陰さんで。ゼルク長官。」

顔を背けて態と目線を逸らすヴィンスの態度が、次長の癪に障った様だ。長官の隣に座する彼が叱咤を飛ばす。

「お前…!何だ、その態度は!」

「はッ、何か問題でも?ゼルク次長。」

挑発的な口調のヴィンスは、その表情も嘲笑を伴うものであった。

彼が元海上保安官である事は、既に周知である。しかし到底、公の場でするに好ましい言承ではない。

顛末の真相を知らないマクシムは、口論にも近い彼等の遣り取りにちらりと視線を送った。

リュユージュはマクシムの耳に口を寄せて、小声で語る。

「ヴェラクルース神使一族元従属血族、ゼルク家の大殿と当主だよ。ブレイアム提督の御尊父と御令兄だ。」

その関係にマクシムが吃驚して息を呑んだ瞬間、開かれた扉よりフェンヴェルグが出御された。

一斉に全員が起立し、最敬礼をする。



「本日、バレンティナ公国 大公シエルラ・バレンティナに対し、最後通牒を突き付けた。」

キャンベル陸軍の元帥を担うフェンヴェルグは黄褐色の軍服を肩に掛けた出で立ちの重々しい声で、彼等に告示を行った。

「我の最たる要求は、アークライトに駐留しているバレンティナ陸軍の撤退である。」

彼は無傷の左目で、全員の表情に視線を滑らせる。

「返答の期限は、三十日間。受諾されなかった場合は此れを宣戦布告と見做し、武力行使をも辞さぬ構えだ。」

御空色の瞳は、窓の外の澄み切った天(ソラ)を想起させる。しかしフェンヴェルグの心境はそれとは正反対の、非常に陰鬱なものであった。

-95-

[] | []

しおりを挟む


目次 表紙

W.A


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -