会議終了後。リュユージュは書斎にて、バレンティナより開示された駐留軍の情報と睨み合いを続けていた。

「なあ、聞きてえんだけどよ。何で提督は名字がブレイアムっつーんだ?」

マクシムが言うのは、先程のゼルク家とヴィンスの確執の事だろう。リュユージュは普段通り書類に視線を落としたままで答えた。

「母方の姓を名告っておられるんだろ。海保は引責辞任だと伺っているけれど、実質的には勘当なんだろうね。」

引責辞任。それは己の身に責任を引き受けて、辞職する事。同時に、ヴィンスは『神の腕』の意味を持つゼルクの姓をも捨てたのだろう。

「ブレイアム提督はとある任務中に判断を誤り、多くの隊員を殉死させてしまったらしいんだ。」

「提督の判断ミスで?それで辞任か…。よっぽどの事だよな、かなり酷かったのか?」

「僕も、他からの伝え聞きなんだけど。」

リュユージュはそう緒言を置くと、言葉を続けた。

「斥候部隊隊長を担っていた彼は、本隊到着までは待機及び警戒を指示されていたにも関わらず、独断で攻撃に反転。戦闘を行った結果、部隊の存続が危惧される程の人数の隊員が死亡してしまった。」

リュユージュの若干の沈黙は、躊躇の為か。彼は漸く書類から視線を外すと、それをマクシムに向けた。

「斥候部隊を壊滅状態にまで追い込んだのは、メレディス海賊団だ。つまり、当時のレオンが其処に居たと言う事になる。」

マクシムは驚愕のあまり、刮目したまま言葉を発する事が出来なかった。






知られざる二人の過去の確執や、訓練された準軍事組織を退けたレオンハルトの手腕も然る事乍ら、一番にマクシムを驚嘆させたのは、リュユージュに対するヴィンスの普段の振る舞いだ。

リュユージュの懐刀であるレオンハルトに酷い辛酸を舐めさせられた経緯など微塵も感じ取らせないヴィンスの温和な態度に、マクシムの脳裏には疑問さえ浮かぶ。

尤も厳密には、リュユージュには一切の責は無い。

しかし、自身を引責辞任にまで追い詰めただけに留まらず、多数の部下を殺害した男を近臣とし仕えさせるなど、通常ならば良い心象を抱く筈が無いだろう。

そして更に、公にはされてはいないが、ヴィンスには連合艦隊艦長に任命されたリュユージュの護衛を目的とした艦隊を率いた事実もある。レオンハルトを驚異の存在として最大限に警戒していた理由として、得心が行った。






「つーか、レオンハルトってそんなに強えのか…。化け物かよ。」

「尤も、海賊だったレオンにとって、敗北は必死と同等だ。海保との戦闘に限らず、彼はどんなに小さな諍いであっても━━例えば、パンの一欠片すらをも常に勝ち取らなければ生き残れない様な人生を歩んで来たからね。」

「完全無敗の奴を初めて叩きのめしたのが、お前って訳か。」

マクシムの言葉を、リュユージュは首を横に振って否定した。

「僕が連合艦隊艦長としてメレディス海賊団と対峙した時には、レオンは命を磨り減らす日々に疲れ果てていて既に戦意を喪失していた。ただただ静かに、僕の白刃を、つまり死を待ち望んでいたんだ。」

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