「元第二隊副隊長 レオンハルト・カイザーです。」

その言葉に、ヘルガヒルデとヴィンスは同時にリュユージュに視線を遣る。

「間違い御座いません。絶対に。」

彼の声色は、確信を得た非常に力強いものだった。





「は、マジで?レオンハルトって…。あの、例の奴?」

ヴィンスは眉間に皺を寄せ、嫌悪感を顕にした険しい表情を見せる。

それも当然だ。

元海上保安官である彼の立場上、レオンハルトに対して抱いている印象と言えば十字軍の元隊員であるという以前に、『何年間にも渡り、散々っぱら手古摺らされた非常に厄介な海賊』というものでしかないのだ。

また個人的にも、遺恨の念を抱くのに充分な理由がヴィンスにはあった。






━━レオン…。

リュユージュはその名を心の中で呟くと、一枚の地図に手を伸ばした。そして、其処に記されている計算式に指先を滑らせる。

━━君の字は、相変わらず『I』と『1』が見分け難いね。






「彼、プエルト全土を移動しながら情報を集めてくれてたみたいだね。それも、追放されて直ぐから。」

ヘルガヒルデは他の地図を手に取ると、其処に刻まれた日付を確認する。

「部屋に閉じ籠ってハンストしていた誰かとは正反対だな。何だってこんなにも優秀な能力を持つ彼が、このクソ屁垂れの下になんか付いてたんだ?勿体ねえ。」

「少し食欲がなかっただけで、何故そこまで愚弄されなきゃならないんだよ…。」

リュユージュはそう悪態を吐くと、呟く様に言った。

「この前、言っただろ。レオンは絶対に僕に背いたりしない、って。」



ヘルガヒルデは再び足を組み直すと、リュユージュに問う。

「君、世間に証明出来る?この情報を収集したのが自分の元部下で、信憑性のあるものだと。」

「無理ですね。」

それに対し、リュユージュは即座に首を横に振る。

「筆跡を鑑定すればレオンの字である事を証明する事は簡単ですが、機関にその必要性を問われ、まず許可は下りないでしょう。それ以前に、彼の無実を現状では証明が出来ておりません。それと、もう一つ気になる事が。」

彼は封筒を手に取ると、それをひらひらと振った。

「封筒の字は、レオンのものではありません。何故なのか、そして誰のものなのか。これについては、僕にも分かりません。」

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