十字軍の軍営病院の一室でレオンハルトが意識を取り戻してから、数日が経過していた。

未だ激痛が走る、喉元。嚥下も困難の為、食事は全て磨り潰された味気無いものだ。

そして上手く声を出す事も左右を見渡す事も、彼には出来ずにいた。回復までは若干の時間を要するだろう。

しかし精神的にはまずまず落ち着いた様で、リュユージュと接している時だけは非常に温和な態度であり、稀にだが充足を得たような表情さえする程であった。



「君の瞳を見ていて、琥珀の逸話を思い出したんだ。虎の魂が閉じ込められているらしいよ。」

リュユージュは毎日欠かさず見舞いに訪れては、彼と雑談を交わす。尤も、今は一方的に語りかけるだけではあったが。

「虎が戦う理由、君は知ってる?」

首を横に振れないレオンハルトは、左手で否と示した。

「虎は生涯を単独行動で過ごすからね。戦うのは、自分の為なんだ。最初は虎に因んだ名前にしようかと思ったんだけど、それで止めた。」

━━名前…?ああ、そう言えばそんな事を言ってたな。

「でも、獅子(ライオン)は違う。群れで過ごす獅子は自分の為だけじゃなくて、仲間の為にも戦うんだよ。」

開け放たれた窓から入って来るのは、爽やかな微風と柔らかな陽光。二人きりの空間は、世界から切り取られたかの様な穏やかな時間が流れていた。

「レオンハルト。『獅子の様に勇敢な者』と言う意味だ。」

心弛びの真の微笑を、彼がリュユージュに初めて見せた瞬間だった。






「レオンが僕に異常なまでの服従を示すのは、そういう経緯だ。でも僕は別にそんなの、求めてないんだけどね。」

『傅けなどと要求しない』━━、そのリュユージュの言葉をマクシムは思い出す。

此処でリュユージュはマクシムに視線を移した。

「君がさっき言ったように、誰しも好きで罪を犯して生きて来たんじゃない。メレディス海賊団に拉致監禁されていた女性から生まれたレオンだって、そうだろう。」

以前にレオンハルトはマクシムに、自分は船の上での生活しか知らない、と語っている。船上で生み落とされ、船上で生き延びるしか術がなかったのだ。

「彼は海賊に『なった』んじゃない。他に選択肢なんて一つもなかったんだよ、生を受けた瞬間からね。だから僕は、レオンを連れて船を降りたんだ。生きる『場所』しか与えられなかったレオンに、生きる『理由』を探して欲しかった。」

リュユージュは一呼吸置き、更に話しを続ける。

「そう思っていたけど、ただの高慢かもな。選択肢が一切ないという点では、僕の人生も似たようなものだからね。」

彼の唇からは微かな溜息が漏れた。

「レオンは充分過ぎる程、僕の為に犠牲になってくれた。第一級国家反逆罪なんて重罪を被る必要なんて、本当はないのに…。」

好機だとマクシムがいよいよ罪状を問おうとした瞬間、書斎の扉がノックされた。

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