リュユージュは体を離して立ち上がると、淀みない動作で右手を胸元に当て左手は背中に回し、威儀を正す。

自身と同等か、或いは目上の相手にして対する姿勢を取ったリュユージュの行動に部下達の心中は穏やかではなかったが、彼等には傍観するしか術は無く。

その非常に美しい所作は、暫しレオンハルトの言葉を失わせるには充分だった。

「僕はヴェラクルース神使一族 ルード家が嫡子、ルカ。」

「ルカ…。意味は『光』か。」

「君の名前は?」

「…。」

「船で聞いた時も答えてくれなかったね。名前、ないの?」

レオンハルトは体を起こすと片膝を立て、視線を床に落とす。そして俯いたまま、消え入りそうな程の小声で答えた。

「…。アンバー、だ。」

「ふうん。」

リュユージュはすっと屈んで同じ高さの目線になると、その顔を覗き込む。レオンハルトは再び吃驚した表情で僅かに後退った。

「アンバー、か。ああ、君の瞳の色だな。」

「関係ねえよ。」

レオンハルトはぽつりと、自分の名前の由来を明かした。

望まれなかった自分など蔑めばいいと、自暴自棄だった。






「レオンが名告りたくなかったのは、由来も一つの理由だったんだと思う。だから僕は“アンバー”の存在を消し去る為に、彼の喉元に十字架を刻んだ。」

リュユージュは自身の右手に視線を落とすと、それを軽く握り締めた。それは短刀がしっかりと握られていた時と、同じ形容だった。

「過去を…、断ち切って欲しかったんだ。」



━━僕が君を殺すよ。

━━”アンバー”を。

━━そうして、君に新しい名前をあげる。



幾度か目にしているレオンハルトの首元の古傷が、マクシムの脳裏に蘇る。

マクシムには、否、他人には到底理解出来得ぬ、二人の深い縁由。それが垣間見えた瞬間だった。

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W.A


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