ビオレッタはガウンを羽織ると、エヴシェンに問い掛けた。
「ねえ。クォーザイトって、何者なの?」
「旦那様が直接契約をされたので、申し訳ありませんが存じ上げません。俺は指定場所で彼と待ち合わせをして、連れて来ただけです。」
「パパはアイツの事、何か言ってた?」
「いいえ、特に何も。…ああ。」
彼は思い出した様に顔を上げる。先程、打たれたその頬は少し腫れていた。
「掘り出し物だ、と。そう呟いておられましたね。」
「ふーん。それって、アイツが安く契約出来たって事?それとも、かなり強いって事?」
「個人の見解では、恐らく後者かと。」
「やっぱり?」
ビオレッタは嬉しそうにエヴシェンを見上げたが、直ぐに不愉快そうな表情に変えた。
「めちゃくちゃ手が痛い。あんな強情な奴は初めてだ、変態め。」
エヴシェンはアンバーの部屋のベルを鳴らす。
「俺だ。」
『どうぞ。』
アンバーはロックを解除し、彼を室内へ入れた。
「大丈夫か?」
「鞭で打たれるくらい何も問題ないと、昨日も言った筈だ。」
ちょうどシャワーを浴び終えたらしい彼は、濡れた髪を拭いている。血に塗れて破れたシャツが、床に放り投げられていた。
「代理はいるから、今日は休むといい。」
「問題ないと言っているだろう。」
アンバーはタオルを肩に掛けると、そうエヴシェンを振り返った。
裸の上半身は、今し方ビオレッタの鞭に付けられた真新しい傷で埋め尽くされている。
その中に交ざる、一つの古傷がエヴシェンの目を奪った。
例の、首元の十字架だ。
「それは…。」
「何故かは知らんが、彼女は『これ』に執着されている様でね。」
アンバーはクローゼットから新品のシャツを取り出すと袖を通し、手早くネクタイを締めた。
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