「へー…。何それ。」

彼女は獲物に狙いを定めた禽獣の様に、鋭くその瞳を光らせる。

アンバーは開かれた襟を戻すと、右手で首元を隠した。

「古傷ですよ。」

「まるで、罪人の枷みたい。」












━━僕が君を殺してあげるよ。



━━”アンバー”を。



━━そうして、君に新しい名前をあげる。












「確かに俺は罪人ですが、これを枷だと感じた事は一度もありません。」

アンバーは真っ直ぐ彼女を見据えた。虚飾も見栄も無い、柔らかな眼差しで。

「さあ、お引き取りを。」

しかしその穏やかな態度はほんの一瞬の出来事で、堅固な彼に一切の余地はないと悟ったビオレッタは仕方なくそれに従った。






アンバーはカフスボタンを外すと、シャツから腕を抜く。

水に濡れて纏わり付くそれは些か、脱ぎ難そうであった。

顕わになった、その胸元。彼はそれを洗面所の鏡に映して、暫く凝視していた。



ちょうど鎖骨の少し上、横一文字の傷痕がある。そしてそれと直角に交わる、喉仏からの縦一文字。

アンバーはゆっくりと、その傷痕に指を這わせた。

まるで恋人に愛撫をしているかのような、恍惚の表情で。

首元に刻まれた肉色の十字架を、彼は狂おしい程に愛で続けた。

自身に此れを刻んだ人物に、想いを馳せながら━━。

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