彼は侵入者の動向に意識を集中させる。
これもまた予想通り、脱衣場は素通りして室内に入って行った様だった。
つまりその行動の意味するところとは、侵入者はアンバーがシャワールームにいる事を事前に知っていたのだ。
━━やはり、盗聴器か何か仕掛けられてるな。
アンバーはそのまま、足音を忍ばせてシャワールームから出た。
部屋に続く扉のノブを右手で握り、左手で拳銃を構える。
流しっ放しのシャワーの音が、彼の耳の奥に響く。
一度、ゆっくりと呼吸をした。
その次の瞬間。アンバーは勢い良く扉を開けると、侵入者に照準を合わせた。
「…っ!!」
それに驚いて叫び声を飲み込んだのは、何とビオレッタだった。
「一体…、何をされているのですか?」
溜息を吐くと同時に拳銃を下ろした彼は、呆れ返っている。
彼女は彼女で驚愕の表情から一変し、唖然としていた。
「キミ、すごく変わってるね。」
そう言いながらアンバーを指差す。
「服、脱がないでシャワー浴びるんだ?」
彼は蟀谷を伝う雫を振るうと、乱れた前髪を掻き上げた。
「誘い寄せる為ですよ。俺の行動を把握しているなら、風呂や便所の時を狙うのがセオリーですからね。」
「つまんないの。」
彼女はそう、今度は拗ねた様な顔をした。
「ご用件は?」
「ないよ。驚かせてやろうと思っただけ。」
「そうですか。では、お引き取りを。」
「は?何様だよ。」
ビオレッタはアンバーを強く睨んだ。
「それにしても腹の立つ制約だな。引っ叩けたら少しはすっきりするのに。」
「申し訳ありません。」
その謝罪は彼女を激昂させた。
手近にあった硝子の灰皿を手に取ると数歩前に出て来て、アンバーの顔面に向かって投げ付けて来たのだ。
それは彼の額に直撃し、鈍い音が響き渡った。
「何で避けないの?キミなら簡単でしょ。」
「余計、お怒りになられるかと思いまして。」
アンバーの言葉はビオレッタの感情を煽っているとしか思えない。
その思惑通り、憤慨を顕わにした彼女が更に一歩、近付いた時。
ビオレッタは目線の高さに、ある物を見付けた。
「絶対に触らないから、動かないで。」
そう言うが早いか、彼女はアンバーのシャツの襟を力一杯に引っ張った。
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