アンバーには、ビオレッタと同じフロアの一室が割り当てられていた。

ロビーまで迎えに来た灰緑色の瞳の男が彼を案内する。

其処はビオレッタの部屋ほどではないものの、充分に豪華な造りの部屋だった。

「俺はチーフのエヴシェンだ。」

アンバーは無言のまま、エヴシェンと握手を交わす。

「しかしお前、お嬢様に相当気に入られたようだな。」

そう下卑た薄笑いを浮かべているエヴシェンを無視し、アンバーは空のクローゼットを開けると手に持っていたスーツのジャケットをハンガーに掛けた。

「手当てしてやろうか?それ。」

エヴシェンは自分の頬を指し示す。あれから幾度となく鞭で打たれたアンバーの頬は、酷く腫れていた。

だが彼はエヴシェンの言葉には、一切反応しなかった。

無視を続けるアンバーに諦めたのか、エヴシェンは部屋の扉を指差しながら吐き捨てる様に言った。

「逃げ出すのなら早い方がいいんじゃないか?何なら今すぐでもいい、見なかった事にしてやるぜ。」

その言葉を聞いたアンバーはエヴシェンをゆっくり振り返ると、漸く口を利いた。

「逃げ出す?そんな必要ねえだろ。」

アンバーは血液の付着したネクタイを緩める手を止め、エヴシェンに歩み寄った。

「あんな飯事(ママゴト)みたいな千条鞭で、俺を痛め付けたつもりか?」

彼は更に一歩、足を踏み出す。

「まあもっとも、一本鞭を持って来たところで変わらんがな。」

アンバーは嘲笑する。過去の自分を。

「俺は生まれ落ちた瞬間から、人間が思い付く限りの拷問を一通り受けて来た。いらん心配だ。」

「そ、そうか。そいつは頼もしい限りだぜ。」

エヴシェンは引き攣った表情で彼にそう言うと、部屋を後にした。






夜も更け、一人での食事を済ませたアンバーはシャワールームに向かった。

コックを捻って暫くした後、流水音に混じって彼の耳に電子音が届いた。

部屋のロックが、何者かによって解除されたのだ。

━━来たか。予想通りだな。

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W.A


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