夜半(ヨワ)の明かな月影は、夜雲を照らす。
緊急会議に十字軍の幹部が召集された。
例外として、元第一隊隊員十名と現第二隊隊員二十四名も参加を許可された。彼等は選良に選良を重ねられた特別優れた騎士達であり、その扱いは他隊員とは画されているのだ。
それに加えて、普段は軍議に参加しないルーヴィンも其処に居り、極めて異常な事態である事を彼等は感じていた。
そして何より、彼等を響めかせた人物。
それは、突如として退役して以来、全く姿を現す事のなかったヘルガヒルデに他ならない。
決して語りはしないが、皆、彼女の復職を強く希求している。
その込められた願意によって熱情を帯びた視線を、彼等はヘルガヒルデに向けていた。そして彼女自身、それを感取していた。
「それではこれより、緊急会議を始めます。」
議長であるベネディクトが開始を宣言すると同時に、クラウスが起立する。
「諸君。深更に誠に申し訳ない。それでは早速、本題に入るとしよう。」
「待て。」
今回の軍議の議題について説明をしようとするクラウスの発言を、ヘルガヒルデが遮った。
「まず先に、言う事があるだろ。」
父親の隣に座るボルフガングは、不思議そうに彼の姿を見上げている。
「ベネディクト将軍、及び隊長隊員の諸君。ヴェラクルース神使軍 筆頭大将 クラウス・キアストスより申し上げます。」
クラウスは一旦言葉を切って暫しヘルガヒルデを睨む様に見据えていたが、やがてゆっくりと発言を続けた。
「私は、第一隊の再構成、及びヘルガヒルデ・ルードを隊長に再任命する事を提案致します。」
パン、パン、パン。
沈黙の中。先ず以て拍手をしたのは、バルヒェットだった。
彼に続き、全員が起立して開手を打つ。それはまるで、終幕を迎えた演者への喝采の様だった。
「おいおい、ニック。手前、寝呆けてんのか?」
ヘルガヒルデの一言により、拍手が止む。彼女は気怠そうに頬杖を突くと、クラウスを嘲弄した。
「手前、俺に『寝言は寝て言え』って言ったよな?その言葉、そっくりそのまま返してやるよ。」
その侮言を聞き流したクラウスは、冷静に述べた。
「それに伴い、総統として、第一隊及びヘルガヒルデ・ルードに対して編制や策戦の決定、変更等の権限の全権の失権を宣言致します。」
会議室は騒然となった。
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