リュユージュを筆頭に、ヴィンスとマクシムは十字軍の軍営を訪れた。提督を担うヴィンスは所用にて何度かあるが、マクシムは初めてだった。

━━アウェイ感が半端ねえ…。

慣れた足取りでつかつかと建物の中を進むリュユージュの背中を飾る翡翠色の生命十字を眺めながら、行き先を知らされていないマクシムは若干緊張しながら付き従う。



三人の姿を認めた隊員達は即座に踵を揃えると、彼等に最敬礼をした。

しかしこれは正確にはヴィンスやマクシムに対してでは無く、リュユージュに向けての行為である。

視界に入る全ての隊員が一切の例外無く敬礼をしていると言うこれまでに経験の無い光景に、マクシムの心臓は鼓動を早めた。況してやそれは挙手や注目の敬礼では無く、御辞儀の最敬礼なのだ。

先頭を歩くリュユージュは、答礼は疎か隊員達に一瞥をくれようともしない。彼にとっては日常の一場面なのだろう。

神使一族の持つ権力の絶大さを、マクシムは改めて否応なしに認めさせられた。



「リュユージュ様!」

背後より彼の元へと駆け寄って来たのは、バルヒェットだった。

互いに敬礼を交わすバルヒェットとヴィンスに、マクシムは慌ててそれに習った。

「将軍は?」

「会堂で御待ちで御座います。しかしその前に、常装にお召し換えを。」

「ああ、済まない。何だか僕は、君にいつも上着を用意させていてばかりだね。」

そう言葉を掛けたリュユージュの口調は穏やかなものであったが、バルヒェットは暗澹たる表情を見せた。

「悪いんだけど、点検だけしといて。洗い濯ぎはしなくて良いよ。」

「畏まりました。」

リュユージュは歩きながら正装の上着を脱ぐと、それをバルヒェットに手渡した。

「リュユージュ様。」

バルヒェットの呼び掛けに、普段の灰茶色のネクタイをしゅっと音をさせて締めながら振り返る。

「何が起ころうとも、老輩バルヒェットは貴方様方の味方ですぞ。どうぞ、お忘れなく。」

その言葉を聞き、リュユージュは目を細めた。

「有り難う。でも、君はヒルデの側に居てやって欲しい。」

滅多にないが、彼がこの表情を他人に見せる時は非常に充足している証なのだ。

「心配いらないよ。僕は、一人じゃないからね。」

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