空が抜けるような青さに澄み切る、公休日。
「なあ、何処行くんだよ?」
漸く医務室のベッドから解放されたリュユージュは、自身の気分転換ついでにドラクールを城下町へと誘い出した。
「決めてないよ。行きたい所、ある?」
だらしなくポケットに手を入れたまま通りを大股で歩くリュユージュの姿に、町民は速やかに道を開ける。
「な、なんかすげェ避けられてんだけど…。」
「そう?」
リュユージュからすれば当然の事なのか、彼は意にも介していない様子だ。ドラクールは背を丸めてフードで顔を隠しつつ、居心地が悪そうに隣を歩いた。
「映画でも観る?」
「映画?」
「あ、今って恋愛物しかやってないや。男二人で観る様なもんでもないね。また今度にしよう。」
ドラクールは首を傾げたまま、映画館の前の巨大な広告を物珍しそうに見上げていた。
「公園でも行こうか。」
これまで殆ど外出の経験のないドラクールには混雑している場所よりもゆっくり出来る場所の方が無難だろうと、リュユージュはそう提案した。
到着したのは、小さな人工池があるありふれた公園だ。
リュユージュは木陰の芝生に足を投げ出す。ドラクールは不思議そうに芝生の感触を確かめた後、彼も真似をして隣に腰を下ろした。
途中で購入した飲み物の中身が気になる様で、ドラクールはくんくんと匂いを嗅いでいる。
「これは?」
「珈琲だよ。飲んだ事ない?」
ドラクールはおずおずと口を付ける。
「苦…っ、何だよこれ!」
「だから、珈琲。」
リュユージュはそれを横目に、自分も啜った。
「君、酒は飲めるのにな。不思議。」
「これは無理!飲めねェ。」
酒の方が良い、と、ドラクールは顔を顰めた。
リュユージュは新たにジュースを購入すると、ドラクールにそれを手渡した。
「何か、欲しいものとか行きたい場所とかないの?」
「いきなりそんな事を言われてもな…、あ!」
ドラクールは芝生からがばっと飛び起きた。
「海!海が見たい!」
そう、彼はまるで幼子の様に顔を輝かせる。
━━こっちは海で散々な目に逢ってるって言うのに…。
リュユージュは一瞬、自分の発言を後悔した。
「俺、本でしか見た事ねェんだよ。海ってめちゃくちゃデカくて、水がしょっぱいんだろ?」
しかし、この無邪気な笑顔を裏切る事がどうして出来ようか。
「分かったよ、今度ね。」
「晴れるといいな!」
八重歯を見せていたドラクールだが、ふと真顔になった。徐々にその表情を曇らせて行く。
「いや、違ェや。俺、船に乗った事はあるんだった。」
「船?何で。」
「記憶には…、ねェけどな。」
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