━━畜生…。まだ吐き気がする…。
朧な薄明に照らされ、リュユージュは漸く眠りの世界から醒めた。
━━今、何時だ?せめて、顔くらい洗っておかないと…。
枕元の時計で時間を確認しようと伸ばした指先に、何かが触れた。それは傍らに置かれた、酔い止めの薬だった。
━━何だこれ、マックスか?市販薬なんか効く訳ないだろ、僕に今更。
再び意識が朦朧とし始めた彼は、否応なしにそれを手放した。
「やっほー!リューク、生きてるかーい?」
太陽が天頂を通過した頃。ヘルガヒルデは一切の遠慮無く、医務室の扉を開けた。
リュユージュの看病に訪れていたマクシムは、彼女に警戒して身を固くする。
「おゥ、絶不調だな。」
ヴィンスはベッドに視線を落とす。
「情けねえなあ!手前、そんなんでこの軍神ヘルガヒルデ様の息子を名乗ってんじゃねえよ。図々しいったらねえや。」
彼女は跳ねる程にベッドの縁に勢い良く腰を掛けると、爆笑しながらリュユージュの背中をばんばんと叩いた。その衝撃に堪え兼ねて発せられる、小さい呻き声。
「声デケェよ。場所を考えろってんだ、阿保。」
そう、ヴィンスはヘルガヒルデを戒める。
「で、どうにかなりそうかい?」
「船酔いなんざ、慣れしかねェよ。なァ?」
話しを振られたマクシムは、こくりと頷く。
「あっそ?じゃあ、毎日やって慣らしたってくれな!」
「お前、ガチで鬼畜だな!?」
ヴィンスは空かさずにヘルガヒルデに突っ込みを入れた。
「ところで、リューク。一つ、相談があって来たんだ。」
ヘルガヒルデはお構い無しに、リュユージュの肩を揺する。
「聞いてる?ってか、生きてる?」
「おい、いい加減にしてやれや。」
「起きろって、話し聞けよ。うわあ、めっちゃ変な顔色。」
彼女は自分を窘めるヴィンスを無視し、尚もリュユージュの体を揺すり続ける。
「悪いんだけどさあ、ちょっと貸して欲しいもんがあるんだよね。一応、君の許可もらっとこうと思って。」
「貴女をここから立ち去らせる為ならば、僕は何を差し出しても惜しくないよ…。」
消え入りそうな程の小声でそれだけ言うと、リュユージュは布団を頭から被り直した。
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