死中求活



ロザーナはリサの応急処置を終えると立ち上がり、彼女を促した。

「怪我は問題ないか?行くとしよう。」

「行くって…ドコに?」

「分からん。だが、此処には居られない。私に、二度目はないからな。」

リサは右腕を押さえながらも素早く身支度を整え、ハクを叩き起こし、熟睡しているミサをおぶった。

「荷物、ないの?」

「ない。私には、これだけだ。」

口角を上げているロザーナが手に取って示したのは、先程リサが研いでいた刀だった。



潮の混じった生温い風が、彼女達の頬を撫でる。

ロザーナは慎重にビルの外の様子を伺いながら先頭を歩く。すると彼女は突然、通路の奥に身を潜めるように指示をした。

「どうしたの?」

リサが小声で訪ねる。

「参ったな。既に囲まれている。」

「囲まれている?誰に?」

「王国軍だ。明朝の調査に備えて、配置を開始しているようだ。時間に余裕はあると思ったが…、甘かった。」



その時、男の怒鳴り声が聞こえて来た。思わずリサは目を瞑り、身を竦める。

「だから、何をしているのか聞いているだけだ!!どうして、軍隊がここへ!?」

「何も知らねえの?俺達は仕事で来ているだけさ。」

どうやら、住人の若い男が数人の王国軍と揉めている様だった。

「汚れ共がよ。お前ら全員、どうせ死刑だぜ!」

下卑た笑い声と共に、一人の兵士が住人の男を小突く。

「止めろ!何をす…、」

「面倒くせえんだよ、このクズが!」

「摩天城の人間なんざ、生きてる価値ねえし。」

「ゴミ以下だぜ!クソの役にも立ちゃしねえ。」

兵士達は罵声を浴びせながら、寄って集って若者を袋叩きにした。



「な…っ!」

思わず飛び出しそうになったリサを、ロザーナは腕を広げて静止した。それを疑問に思ったリサは顔を上げるも、言葉を飲み込んだ。

強く歯を食い縛っているロザーナの横顔から、抑え難い怒りが沸き上がっている様がまざまざと見て取れたからだ。

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