「僕の名前の原形は『リューク』。これは古語で『凱旋者』と言う意味なんだ。」

前を行くドラクールは肩越しにリュユージュを振り返り、彼の顔を見る。

「ただ、僕の母親って物凄い歪んだ女性(ヒト)でね。彼女は期待や予想に反する行動しか取らないんだよ、悪い意味で。だからこんな名前なんだと思う。」

しかしリュユージュは正面を見据えたままで話し続けており、ドラクールと視線を合わせなかった。

「まあ、僕はそんな彼女の更に少し斜め上を行くのが好きなんだけど。」

「ああ。本当、そうだな。」

ドラクールは酷く呆れた表情で、力なく頷いた。






「ところで、さっき言ってた『アルカード』って?」

「俺の名前を知ってるか?ま、アナグラムみたいなもんだな。」

「ふうん。」

リュユージュは頭の中で『Alucard』と綴り、納得した様に頷いた。

「それにしても、君って凄く綺麗だよね。」

「…。は?」

ドラクールは眉間に皺を寄せ、警戒心を丸出しにした表情を見せた。

「その髪。瞳も。」

それを聞いた彼は益々、眉間に深い皺を寄せる。

「何でだよ、何処がだ。気持ち悪ィだろ、真っ黒で。」

ドラクールは体裁が悪くなり、リュユージュから目を逸らした。



「気持ち悪くなんかない。黒の髪も瞳も初めて見たけど、本当に綺麗だと思うよ。」



静穏で確然としたリュユージュの口調はとても軽挙とは思えず、更に偽善も感じられなかった。虚心そのものである事を、翡翠色の瞳が物語っていた。

その様に、ドラクールは空を仰いで失笑する。

「お前、変な奴だな。」

「何でかな。それ、良く言われる。」

「何でもなにも、変な奴だからだろ。」

「悪かったね。」

爽涼な旭光が、二人を照らしていた。

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