その場には、まるで襤褸(ボロ)布の様な若者が残された。

「行くぞ。」

ロザーナはリサとハクに、そう目配せをする。

口を開こうとしたハクに対して、リサは肩を掴んで厳しい視線を向けると首を横に振った。彼は姉の言わんとする事を理解し、静かに従った。



「駄目だ、陸側は完全に塞がれた。」

ロザーナは抜け道を探すも、多勢の王国軍に閉口する。

「北に行ってみよう。」

ヴォーダンの要塞の北は、海だ。

しかし、船がなければ海は渡れない。だがこのまま、此処に留まる事も叶わないのだ。






海を臨む北側のビルから見えたその光景に、ロザーナは舌打ちをした。

「何て事だ。海軍が…!」

目視が可能な程、海軍は陸地の側に停泊していた。彼等は軍艦から小型船を次々と下ろしている。

甲板にて作業を指示している一人の男に気が付いたロザーナは、驚いて目を剥いた。彼女は顎に手を当てて暫し黙考した後、意を決した様にリサを振り返る。

「リサ殿。水以外の荷物は全て此処で捨てろ。」

「分かった。でも、どうするの?」

リサは不安そうな表情でロザーナを見上げる。

「一艘、船を奪う。」

「ムリだよ、そんなの!」

今にも泣き出しそうな表情で駆け寄り縋り付くリサに対し、ロザーナは宥める様にその肩に左手を添えた。そして、空いている右手で軍艦を指差す。

「あの司令官を人質に取る。この好機を逃したら、我々は二度と脱出出来ぬであろう。」

「司令官なんて、物凄く強い人なんじゃないの!?」

ロザーナは微笑する。

「安心しろ。私は絶対、負けはせん。」

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