才色兼備
婚儀の翌朝も、毎日と同じ時刻にリュユージュの屋敷の電鈴が鳴らされた。
リュユージュは履き慣れた学校指定の革靴に足を突っ込むと、正門で彼を待つ軍服の男の元に向かった。
男の背中には、キアストス家の定紋である碧玉色の末広十字が鎮座している。
この男こそ、知将クラウスの息子、ボルフガングである。
その均衡の良い堅固な身体と精力的な顔付きは、若い頃のクラウスを想起させた。
「おう。」
「おはよう。」
リュユージュは自分で正門に施錠をすると、挨拶は交わしたもののボルフガングとは目も合わせずに歩き出した。
「あと一週間の我慢か。」
ボルフガングは酷く気怠そうに、その後ろに続いた。
「お前、やっと卒業だな。長かったろ、一年。」
ボルフガングはリュユージュをからかうも、彼からは一切反応がない。
「俺は長かったぜ。お前の監視で一年が終わるなんざ、不毛で仕方ねえ。」
漸くリュユージュはゆっくりとボルフガングを振り返った。そして普段と同様、感情のない翡翠色の瞳を向けた。
「ああ、そう。それは申し訳なかったね。」
「思ってもいねえ詫び言なんざ、要らねえよ。」
ボルフガングは不愉快そうに眉間に皺を寄せる。
「ああ、そう。言っておくけど、僕に監視を付けると決めたのはクラウス将官だよ。文句があるなら、父上に直接どうぞ。」
「言ったさ。『何故、俺がレオンハルトなんかの代わりを務めなきゃなんねえのか』ってな。」
この時ばかりは、リュユージュは自分の表情の欠落に感謝した。その名前を耳にして平常心でいられる程、彼等の築いた間柄は浅からざるものであったからだ。
リュユージュはボルフガングを仰視すると、侮蔑の言葉を放った。
「第九隊隊員が第二隊副隊長の代理に抜擢されるなんて、異例の事態だもんね。」
「な、何だと!?」
ボルフガングはリュユージュに掴み掛かるも直ぐにその手を離し、不敵に笑んだ。
「ふん。言っとくが、代理じゃねえぜ。お前の復権と同時に、俺は正式に第二隊の副隊長に任命される。」
「ああ、そう。」
リュユージュは乱された襟元を軽く整えると、ボルフガングに背を向けて通学路を進んだ。
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