もう何時間も前からリュユージュは目覚めてはいたが、ベッドから出ずにごろごろと惰眠を貪っていた。
━━お腹空いたな。
枕元の時計に目をやると、時刻は既に昼近い。
昨日、無事に士官学校の卒業式を迎えた彼は本日から三日間の公休となっており、時間に追われる理由が特にない。彼は再び、薄手の布団を頭から被った。
その時、屋敷の電鈴が鳴らされた。
リュユージュは咄嗟に、最近の自分の生活態度を振り返る。しかし、休日にわざわざ呼び出しを喰らわなければならない程の失態を曝したり、また規則に反する様な行動を取ったりした記憶は全くない。
不思議に思いながら、彼は訪問者の応対をするべく寝室を出た。
玄関を開けると、隙間から強い陽光が射し込んだ。その余りの眩しさに、彼は目を細めて手を翳す。
「おはよう。」
線条の視界に飛び込んで来たのは、ベネディクトだった。
リュユージュは何の反応を示す事も出来ず、ただぽかんと口を開けたまま、玄関に立ち尽くした。
「珍しいわね、起きてたの?」
確かに眠ってはいなかった。だが、起きていたかと問われると、肯定もし難い。
「まだ半分、寝てるみたいだけど。」
そう微笑するベネディクトの桜色の唇に、彼は目を奪われたままだった。
「いいかしら?」
「あ、はい。」
リュユージュは漸く言葉を発すると、ベネディクトを室内へと招き入れた。
客間のソファにゆったりと腰を下ろすベネディクトは、普段の甲冑や軍服とは大きく異なった服装をしていた。
少し踵の高いベージュのパンプスに、細身の白いパンツ。そして爽やかな新緑の時期にとても良く合う、萌黄色のシャツを着用している。
彼女が見慣れない服装をしているという、ただそれだけの理由で、リュユージュの鼓動は落ち着きを失っていた。
「私、午後から半休なのよ。ちょっと付き合ってもらえるかしら。」
「はい。護衛ですか?」
ベネディクトは声を出して笑った。
「そんな大袈裟なものじゃないわ。街に買い物に行きたいの。一緒にお昼、食べましょうか。貴方の卒業祝いも兼ねて。」
まさか外出に誘われるとは微塵も予想すらしておらず、リュユージュはどうにか平静を取り戻そうとするもそれは到底出来そうにもなかった。
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