ルーヴィンは酷く呆れた表情で、居室の入り口に立っていた。

「兄さん!」

「国師様!」

彼の突然の来訪に狼狽するベネディクトとは対象的に、ウィトネスは顔を輝かせる。

ルーヴィンは背中に有る黄金色の日輪十字を翻し、大股でベネディクトに歩み寄って来た。長い丈の上着からは、衣擦れの音がした。

余りのその迫力に、侍女達は速やかに退く。



「大体あれは、室内で木剣を振り回して遊んでいたお前が悪いんだ。」

「それにしたって私、散々謝ったわ。なのに許してくれなかったじゃない。」

そう言いながらベネディクトは両腕を組むと、拗ねた様に顔を背けた。

「まあ今更、過去の事柄を掘り返して責めても致し方あるまい。」

彼は溜息を吐きながら、自身のハープに触れる。指の腹で軽く弦を弾くと、哀愁を帯びた独特の音色が響いた。

「うん。きちんとしてあるな。」

アリュミーナが調律や整備などの管理を怠る事なく大事に扱っている様に、ルーヴィンは満足気に頷いた。






「あの、国師様。」

ウィトネスはルーヴィンに歩み寄ると、彼を見上げた。

「ああ。無事、婚儀は終了しました。着替えてから此方に来ると申しておりましたよ。」

その穏やかな微笑みと心地好い語調に、ウィトネスは安堵の表情を見せる。

「私もアリュミーナのウェディングドレス姿、見たかったです。」

「いえ。残念ながら、これが私共ヴェラクルースの正装なので。」

ルーヴィンはそう、自身の胸元に手を置いた。

「ですから、彼女もドレスなど着用してはおりませんよ。」

背中を定紋に彩られた純白の衣装には、充分な威厳と風格が備わっていた。






様々な生命が芽吹き始めた、春陽の溢れる穏やかな今日。

儀式を執行したルーヴィンの下、リュユージュとアリュミーナは正式に婚姻した。

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