「おお!良く来たな、アルカード。」
城主は快く彼等を迎え入れた。
だがそれは決して、彼女達を助けたいという善意からなどではない。
その証拠にリサには全く目もくれず、彼の視線はドラクールが抱えている荷物に釘付けだった。
「黄金より価値がある物とは、一体何なんだ?」
城主がそれを指差すと、彼は勿体を付ける様子もなく寧ろ乱暴に開示した。
荷物の中身は、織物だった。
「ほう、これは見事な絹織物だ。」
白と黒の二枚のうち、城主は黒い織物を手に取った。
「反物か?何にせよ、相当な上物だな。」
彼は満足そうに一人で相槌を打っている。
適当に折り畳まれていたそれを広げた時、
「…っ!?」
小さな悲鳴が上がった。
城主のものだけでなく、リサやハクの声も交ざっていた。
「正十字の…国章…。」
リサのその小さな呟きが部屋中に響く。
ドラクールが持参した物は『聖布』と呼ばれる矩形の絹織物だ。
主に国交での慶弔で使用され、慶事には白、弔事には黒が用いられる。
左肩を中心に前後へ垂らし、裾部分にはキャンベルの国章である正十字が堂々と刺繍されていた。
これを所有とする者とは、外交において己を明示する必要のある者に限られる。
つまり、王族であるという揺るぎ無い証に他ならないのだ。
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