どのビルも元々が甚だしく損傷した建物ではあるが、其処は酷く煙っていてまた著しい悪臭が立ち込めていた。

ドラクールは瞬時に状況を理解した。だがリサの手前、口に出すのは躊躇われた。

何人もの男達がビルの入口を取り囲んで内部の様子を伺っている。皆、一様に険しい表情をしていた。

暫く推移のままに佇んでいると、中心にいた人物と目が合った。



「アルカード!」

一斉に振り向いた男達を肩で押し退け、声の主はこちらへ歩み寄って来た。

「お前、何をしに来…、」

リサやハクの存在に気付き、彼はそこで言葉を止めた。

「忙しそうだな、団長。」

「見ての通りだ。」

外壁は黒く焼け焦げており、漏電による火災が起きたのは誰の目にも明白だった。

「水が使えないから海水を汲み上げて来てやっと消したんだ。まだまだ残ってる。」

彼の言う残っているものとは作業の事ではなく、遺体を指していた。

立ち込めている異臭の正体は人間が焼けた臭いだと、ドラクールは知っていた。

「今はお前に構ってられないぞ。」

そう言いながら彼は一人の青年を手招きし、代わりに城主の元に案内する様に言い付けた。

「邪魔したな。」

ドラクールは外套を翻し、その青年を連れ立って去った。






移動中、無言で青年の後に続いていたドラクールにリサが話し掛けて来た。

「名前、アルカードって言うんだ?」

彼女は僅かに口角を上げている。彼はそれを一瞥すると、先頭を行く青年との距離を気にしながら

「偽名だ。」

そう、耳打ちした。



リサが落胆している様を、彼女の前を歩くドラクールは知る術がなかった。

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