ドラクールは早朝に目が覚めた。
朝方と呼ばれるこの時間まで起きていた事は多々あるが、眠っていたのに目覚めた事態には自身が一番驚いていた。
どうにも意識と感情の狭間に引っかかっているものにより、彼の安眠は妨げられているらしい。
「ああ、珍しいな。もう起きているのか。」
ドラクールは激しく落胆し、嫌がらせの様な大きな溜息を吐いて見せた。
「何で今日はあんたなんだ、ルーヴィン。」
「仕方なかろう。昨夜、また事件が起こったからな。」
「事件?」
ルーヴィンはまさかドラクールが反応するとは予想もせず、聞き流される世間話とばかり思っていた。
「何だ、事件って。誰か死んだのか!?」
ベッドから飛び下りたドラクールに些か面食らった様だが、ルーヴィンは正確に受け答えをする。
「いや、死んではいない。女が襲われたらしい。」
朝食を静かに置き、ルーヴィンはいつもの煙草を取り出した。
「調査中だ。」
ドラクールがいくら食い下がっても、ルーヴィンはそれ以上は語らなかった。
実際ルーヴィンもベネディクトから二言三言を聞かされただけで詳しい事情は分からないから語り様がないだけなのだが、ドラクールは焦燥と不快を顕わにした。
「何を苛ついているんだ。襲われそうな女に心当たりでも?」
ルーヴィンは部屋中に転がる酒瓶の一つを、最も口が大きいであろう物を灰皿代わりにしようと拾い上げる。
「違う。そうじゃない。」
声は弱々しいがドラクールはしっかりと首を横に振った。そしてルーヴィンを射抜くが如く厳しく見つめた。
「襲われたって、どんな風にだ?」
「確か、背後から刃物で切られたとか。」
低い天井に視線をうつし、ルーヴィンは記憶を辿る様に語る。彼は別段ドラクールに気負された風ではないけれど、きっと真実を言っているだろう。
「背後から…。」
特に手がかりを得た訳でもないが、ドラクールは繰り返し呟いた。
「同じ様な事件ばかりだな。」
ルーヴィンの一人言にドラクールはまたしても予想外に反応を示した。
「これで三回目だよ。」
ルーヴィンは酒瓶に煙草を放り込んだ。
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