その夜は早めに戻り、ドラクールは件を探るべく一人思案に暮れた。
━━そもそも断首だから、そんなに酷くない。
国法では、様々な処刑法が認知されている。
快楽殺人や怨恨等、残酷な手段を用いた場合は断首や絞首の様に一瞬で済む方法はとられない。
己が殺害した方法と同じとまではいかないが、限りなく凄惨で残忍に処刑されるのだ。
例えば、肛門から腸を引っ張り出す。しかし意外にもこの程度では即絶命はしないものなのだ。自身の内蔵を目の当たりにした後、やがて失血死に至る。
例えば、火責め。業火で『焼く』のではなく、弱火で『炙る』のだ。体温が上昇し、肉体の穴という穴から沸騰した血液が吹き出す様は想像に難しい。
それらに比べれば断首刑はまだ良い方だ。
情状酌量の余地がある場合、若しくはある程度の身分の者に適用される。
しかしリサの話し振りからは身分が高いとは到底思えない。
消去法で必然的に、何らかの事情により彼女の父親は残酷な処刑法は免れた。
━━それは何故だ。
国の治安維持から王の身辺警護までを一手に司る人物、ベネディクト。
身体能力は非常に高く、男性すら剣術においては彼女より秀でる者はいない。
鍛え上げられたしなやかな筋肉と無駄のない軽い体躯を最大限に生かし、多少は腕力で男に劣るものの、それは俊敏さにより充分補われていた。
━━力ずくで問い質すなんか、無理だしな。
素手の殴り合いにしても、ドラクールには勝てる要素が見つからなかった。
何より、ベネディクトがそう簡単に口を割る筈がない。
訓練を重ねているであろう彼女の拷問に対する耐性は、もしかしたらドラクール以上であろう。
━━体に聞けないならば、心に訴えるか。同情を引き、機密を漏らさせる?
どちらにせよ容易い方法ではない。
第一、自身と彼女の間にその様な関係が成り立っている訳もなく。
兎にも角にも、明日の朝ベネディクトが朝食を運んで来なければ事は進まない。
本当に自身は無力だと、憤慨しながら酒を呷った。心地良い酔いが訪れる筈がないのを知りながらも。
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W.A