朝靄の中。
ロザーナは身を潜めていた茂みから飛び出すと、その特出した脚力を活かし、砂浜の上とは思えぬ速度で一人の海兵に走り寄った。
背後からの襲撃に気が付いた海兵は振り向くも、既に目睫に迫っていた彼女に柄で蟀谷を強く殴り付けられた。
海兵は抵抗する間もなく脳を激しく振り動かされ、ぐらりと倒れ込む。その体が砂に沈むと同時に、ロザーナは彼の剣を奪った。
「何者だ!!」
直ぐ様異変に気が付いた大勢の屈強な男達が、白刃を手に襲い掛かる。
しかしロザーナは素早い身の熟しで彼等の間を擦り抜け、そして白刃を受けては流し、一人また一人と斬り捨てて行った。
彼女の周りに海兵達が積み重ねられた、その時。
「うるァ!!」
一人の男が雄々しい声を上げながら、ロザーナに向かって突撃して来た。
「俺が相手だ、お姉ちゃん!!」
反りのある刀剣を大きく振り被っている、褐色の肌の若い男。
マクシムだ。
ロザーナはその初撃を易々とかわすと、即座にマクシムの両手を背中に回した。
彼が微かに薄ら笑いを浮かべた、その時。
パン!パン!パン!
乾いた銃声が辺りに響いた。
「マジかよ…!アイツら!」
マクシムは焦燥の表情で、狙撃手に向かって叫んだ。
「撃つな!!危ねえだろ、馬鹿野郎!!」
海兵達は、にわかに信じ難いマクシムのその言葉に驚き入った。司令官としての彼は部下に対して、常に真逆の指示をして来た事しかなかったからだ。
「当たったらどうすんだ!!止めろ!!」
戸惑いながらも、狙撃手は銃を下ろす。
「いいな、撃つなよ!!絶対!!」
マクシムはロザーナに小型船まで引き摺られて行った。船内には既に、混乱に乗じたリサ達が乗り込んでいる。
そしてマクシムを盾にしたロザーナも乗船すると、海兵達に向かって宣言した。
「追跡や攻撃があった場合、この男の命は保証しない。そうでなければ、後程解放しよう。約束する。」
彼等を乗せた小型船は、大海原に向かって走り出す。
海兵達は皆一様にただ呆然とその場に立ち尽くし、それを目で追うしか出来ずにいた。
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