飛び散る水しぶきと、顔に吹き付ける海風。小型船の舳先は速度が上がるにつれて水面から持ち上がり、見る間に砂浜から遠ざかって行った。



「あー、クソ!俺、明日っから絶対これ腑抜け呼ばわりされっぞ。」

けたたましいエンジン音が響く中、マクシムは沈鬱な表情で煙草に火を付ける。

「感謝する、大尉殿。」

ロザーナはマクシムに突き付けていた海兵から奪った剣を、静かに置いた。

「全く、とんだ茶番だぜ。つーか、こんなん提督にバレたら減給モンだ。俺の生活、どうしてくれるんだよ。」

そう言うも、マクシムは笑顔だった。褐色の肌に白い歯が眩しい。

「しかし、まさかまた会えるとは思ってもいなかったぜ。」

彼の吐き出す紫煙は流され、消えて行く。

「正直、あれからずっと自責の念に駆られてどうしょもなかったんだ。あんたに下された判決が死刑だと、知った日からな。」

「それが貴殿の正義だろう、大尉殿。気に病む必要はない。」

「違えよ。俺は死人を出したくないから、海兵になったんだ。」

マクシムの横顔は何処か心寂しそうだった。



「ところであんた、世界中に指名手配されてるぜ。戦時反逆罪に問われてる。」

「そうか、それは知らなかった。忠告、感謝する。」

「懸賞金も掛かってる。あんたをしょっぴけば俺、借金かなり返せるんだが。」

ロザーナは喉を鳴らして低く笑った。

「貴殿、以前も言っていたな。借金がどうとか。一体、何をしたんだ?」



水平線の向こう。昇りきった朝日を、マクシムは眩しそうに目を細めて眺めている。

「変えてやったのさ、世界をよ。俺のやり方でな。」

彼は煙草を噛んだままロザーナを振り返ると、微かな笑みを見せた。

「俺はもう誰も、失いたくねえんだよ。」

その眼光には、悲壮な過去が溢れていた。

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