摩天城の側、リュユージュは木に繋いでおいた愛馬の手綱を外す。
「乗って。」
「いや、いい。」
ドラクールは右手の拇指と食指を口に入れ、口笛を吹く。すると何処からとも無く、月色の馬が現れた。
「それ、君の馬?どこに繋いでいたの?」
「繋いでなんかいない。こいつは自由にやってるんだ。呼べば来る。」
「ふうん。」
リュユージュは膝を折り曲げて反動を付けると、鐙を使わずに腕の力だけで軽々と騎乗した。
一方、ドラクールは慣れない身の熟しでどうにか騎乗する。
後ろに払われた艶やかな黒髪は、彼の背中を音もなく滑り落ちて行った。
「おい、気分悪いな。じろじろ見んな、糞ガキ。」
ドラクールは再び髪を一つに結うと、リュユージュを振り返った。
「ガキじゃない。ちゃんと自己紹介したでしょう。」
「お前の名前、覚え難いし言い難い。何だっけ。」
「馬鹿なの?」
「うるせェ!ガキじゃなきゃチビだな。」
「リュユージュ。」
「あ?」
「リュユージュだよ。僕の名前。」
「リュ…?あ?」
「君、本物の馬鹿?」
「誰が馬鹿だ!こンの糞チビ!」
「面白いくらい、何の捻りもない侮言だね。」
ドラクールは溜息を吐くとリュユージュとの会話を諦め、馬の腹を踵で押した。
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